教祖様の部屋のドアが開き
「うおおぉぉぉ~~~!!!」
猛獣のような唸り声は、ますます大きくなった。のみならず、(あまり耳に入れたくはないが)「あのゲスヤロウ」とか「くそったれ」といった下品な単語も聞こえる。
「どうしましょう! カトリーナさん、どうしましょう!」
アメリアは、涙声になって言った。
わたし的には、いざとなればプチドラの力でどうにでもできるけど、教団の「事務局長」をぶっ殺すみたいなことになるのは、(一般論としては)いくらなんでもマズイだろう。プチドラもその点を察したのか、わたしを見上げ、苦笑している。ただ、中学生か高校生のヤンキーのような事務局長がいなくなったところで、教団にとっては損失も損害もない。むしろその反対に、教団最大の汚点を除去したということで、みんなから感謝されるかもしれない。
わたしは「ふぅ」と、何回目かのため息をつき、
「本当に、避けられない場合には、仕方ないわね……」
と、プチドラを目の前に抱き上げ、アイコンタクトで(場合によっては事務局長に跡形もなく消えてもらう)意を伝えた、その時……
「あの、その……、え~と……」
突然、どういうわけか、教祖様の部屋のドアが開き、部屋の中から、繊細な金の刺繍が施されたアイボリー色の衣を身につけた少女(すなわち、教祖様)が顔を出し、半身を乗り出して、わたしたちに向かって(「こっちに来て」という意味だろう)手招きした。思わぬところで思わぬ人から助けの手が差し伸べられたものだ。
わたしは恐怖に打ち震えるアメリアの手を引き、教祖様の部屋に滑り込んだ。
教祖様がドアを閉め、ドアに鍵をかけた直後、
「うおぉぉ~~~、絶対にぃ、殺ぉ~す!」
部屋の外から、ひときわ大きなキャンベル事務局長の声が、ドタバタと廊下を激しく踏みならす足音とともに響き渡った。事務局長は、まるで台風のような勢いで、教祖様の部屋のすぐ近くまで迫っている様子。でも、いくら非常識な事務局長とはいえ、鍵がかかっているドアを突き破って教祖様の部屋の中まで侵入してくることはないだろう。
部屋の中で、教祖様は、わたしとアメリアを前に落ち着かない様子で、頭を右に左に動かして、
「あっ、あの~、あなた方は、確か……、え~っと……、ごめんなさい、お名前は……」
「わたしはカトリーナ・ウッド。で、そっちがアメリアです」
と、わたしはアメリアの分も含め、軽く自己紹介。教祖様なら、教団のエリート信徒であるわたしの名前くらいは(お世話係のアメリアはともかく)記憶していてもよさそうなものだが、そうでもないっぽい。教祖様のキャラは、やはり、いわゆる天然ボケ系なのだろう。
そうこうしているうちに、やがてキャンベル事務局長の声は遠ざかり、いつしか聞こえなくなっていた。事務局長は、本当にお騒がせな……、のみならず有害……、もっと言えば、百害あって一利なしキャラかもしれない。




