教団本部での奇遇
アメリアは、「はぁ~」と大きくため息をつき、
「え~っと、時間をだいぶ過ぎてますが、でも、行かないわけには…… カトリーナさん、早速ですが、コーブ事務局次長のところに報告に行きましょう」
「えっ、これから!?」
「当然です。上司には迅速に報告、こまめに連絡、それから、え~っと、なんだっけ……」
わたしはアメリアに背中を押され、コーブ事務局次長の部屋に向かった。ただ、腹ペコのわたしは足取りも重く、途中で何度か立ち止まり、小休憩。それでもどうにか、教団本部の最も奥まったところの(教祖様の部屋の手前の)事務局次長の部屋にたどり着いた。
ところが、アメリアはここまで来て、小さく縮こまり、わたしの背後に身を隠すようにして、
「いよいよですね。でも、え~っと…… どうしましょう……」
「報告するのはわたしでしょ。ただ、宮殿で見たり聞いたりしてきたことを言えばいい。それだけよ」
と、ドアをコンコンとノックしようとした時、不意にドアが開き、部屋の中から、顔は割と美形(耽美系)だけど、どこか無機的な雰囲気の男が現れた。この顔は(今回は忘れていない)、マーチャント商会会長(でも、名前は忘れた)。
彼は、わたしを見ても驚きもせず、
「これはこれはウェルシー伯、このようなところで、奇遇ですな」
「本当に奇遇ね。この前の講演の後、わたしのことをコーブ事務局次長に話したのは、あなたでしょ」
ところが、マーチャント商会会長は特に答えを返すことなく、また、表情を変えることもなく、「これにて失礼」と、足早にわたしとアメリアの脇を抜けていった。
一体、なんなんだか…… わたしはマーチャント商会会長の後ろ姿を眺めながら、「ふぅ」とため息。でも、教団本部に向かう荷馬車の列を目にした直後、マーチャント商会会長を教団本部で見かけたということは、合理的に考えれば、その荷物の納入者をマーチャント商会と見てよいのではないか。
わたしは気を取り直し、コーブ事務局次長の部屋のドアをコンコンとノックした。部屋の中からは、「どうぞ」という素っ気ない事務局次長の声が響く。「失礼します」とドアを開け、部屋に入ってみると、室内では、コーブ事務局次長が机に向かって何やら分厚い書類の束に目を通している最中だった。
コーブ事務局次長は、その書類の束を裏向きにして立ち上がると、ギロリと射るような視線でわたしをにらみ、
「あら、あなた…… 今、戻ったの?」
すると、アメリアは、わたしが口を開こうとする前に、直立不動の姿勢になって、
「はっ、はい、ただいま戻りました。え~っと、エリート信徒カトリーナ・ウッド及び、え~っと……」
「前置きはいいわ。時間の無駄だから」
と、これは、コーブ事務局次長。




