荷馬車の行列
「えっ、何!? あの行列は、なんなの??」
馬車の窓から顔を出したわたしは、思わず声を上げた。通り(厳密には、わたしたちの乗った馬車の前方)には、数珠つなぎの荷馬車の行列ができていた。つまり、馬車は荷馬車の渋滞に巻き込まれ(あるいは行く手を塞がれ)、二進も三進もいかなくなっているという状況。なお、荷馬車には荷物が満載されていると思われるものの、その上を黒っぽいシートが覆っているので、積荷が何かは分からない。
アメリアは、馬車の中で地団駄を踏み、
「そんな、困ります! え~っと、え~っと…… どうしましょ!!」
ちなみに、通りの幅はさほど広くはなく、荷馬車の行列の横を馬車がすり抜けていくのは無理な状態(無理にすり抜けようとすると、言わば対向車線を走ってくる馬車等に正面衝突してしまう)。のみならず、荷馬車が向かう方向は、わたしたちの乗った馬車が向かう方向と違わないようだ。ならば、荷馬車の後についていけば、そのうち(時間はかかっても)教団本部に到着することになる。何もそう「困る」ことはないのではないか。
でも、それはそれとして……
「あの荷物、一体、なんなのかしら。どうでもいいことだけど、少し気になるわ」
わたしはプチドラを抱き上げ、
「お願いよ。この荷馬車の行列がなんなのか、ちょっと、見てきてくれる?」
プチドラは「分かった」とうなずき、魔法の力だろう、サッとその姿を消した。
馬車は、数珠つなぎの荷馬車の後ろを、まったりゆっくりのノロノロ運転。そのスピードは、牛車なのか馬車なのか分からないくらい。いや、牛車でも、現在の状態の馬車よりも速く進むことができるだろう。
アメリアは「あ~」とか「う~」とか、頭を抱えて唸り声を上げながら、
「カトリーナさん、なんとかならないものでしょうか。これでは、遅刻どころか……」
「まあ、なるようになるでしょ。でも、どうにもならないとすれば……、遅刻でなくて大遅刻かしら。どのみち、無駄なときは、どうあがいても無駄なものよ」
すると、アメリアは、べそをかくようにして、
「そっ、そんなぁ~…… それじゃ、コーブ事務局次長の指示に……」
と、ここまで言いかけて、慌てて口を押さえた。彼女はあたふたと無意味に手足を動かし、
「いえ、なのでもないです。え~っと、天地神明、事務局次長の言いつけでカトリーナさんに隠し事なんてことは……」
なんとも、分かりやすい反応。多分、あまり信を置けないわたしではなく、お世話係(つまり政治将校)のアメリアに、定期報告の具体的日時を絶対的な時間厳守で指定していたのだろう。
そして、しばらくして……、突然、カクンと右肩が重くなって、
「ただいま、マスター」
と、いきなり、プチドラがその姿を現した。あからさまな登場だけど、アメリアは内心それどころではないらしく、先刻プチドラが姿を消したこと含め、気がつかなかったようだ。




