再び教団本部へ
馬車は屋敷を出ると、帝都の一等地を抜け、きらびやかな高級住宅地からそれなりの住宅地へと、教団本部までの道のりを駆け足で進んでいった。そして、大通りから角を曲がって細い道に入り、再び広い道に出て……等々、方向音痴のわたしには今どの辺りを走っているのか分からないが、馬車は着実に教団本部に近づいているようだ。
アメリアは落ち着きなく、しきりに窓の外に目をやったり、体のあちこちを触ったり……、すなわち、時間を気にしている様子。
「もう少し、こう……、え~っと…… スバ~ッと、ゴォ~ッとですね……、快速の超特急というわけにはいかないのでしょうか」
「そうね…… もっと速度が上がればいいね……」
この日、結果的に朝食抜きになったわたしは、「完全にまったくやる気なし」モード。
アメリアは「はて」と首をひねりつつ、いぶかしげにわたしを見つめ、
「カトリーナさん、どうしたのですか? どこか体の具合でも??」
「いえ、なんでもないわ」
わたしは適当にアメリアをあしらいつつ、彼女から顔を背けた。同時に、心の底から「はぁ~」と、長いため息。
そんな感じで(非常にリラクタントに)馬車に揺られること、数十分、
「カトリーナさん、もうすぐですよ、もうすぐ教団本部です。多分、もうすぐだと思います」
不意に、それまで窓の外の景色を眺めていたアメリアが、わたしに顔を向けて言った。わたしは特に言葉を返すこともなく、「はいはい」という具合に小さくうなずく。
「いよいよですね! コーブ事務局次長に情報収集の成果を報告するのです!」
なんだか分からないが、アメリアは(わたしから見て、いや、多分、誰から見ても)異常なほどに気合いが入っている様子。
「コーブ事務局次長の……、ひいては教祖様の特命ですから、すなわち……」
アメリアは長々と、特命の意義がどうのとか、教団の活動に資するのがどうのこうのとか、少々演説口調になって語りかけてきた。でも、ここは、アメリアが張り切るところではないだろう。
その時、突然……
ガクン! バタン!! グェッ!!!
と、馬車は急停止。わたしは慣性の法則により、前につんのめって、向かい側に腰掛けていたアメリアの胸に、頭から飛び込んだ。一体、何があったのだろう。
「アイタタタ……」
わたしが顔を手で押さえながら身を起こすと、
「え~っと…… あの、すいません、痛いのはこっちですよ、カトリーナさん……」
と、アメリア。ちなみに、先刻の「グェッ!!!」は、わたしがアメリアの胸に図らずもダイビングヘッドバットをくらわせることになった際の彼女の悲鳴だったらしい。
それにつけても、この急停止には、一体何が? 馬車の前をカルガモの親子が横断していたのでもあるまい。わたしは馬車の窓を開け、ひょいと顔を出した。すると、そこには……




