唯一神に捧げるべき大切なお勤め
アメリアが言うには、今日が、(二重スパイとしての)宮殿内等々の情報収集の成果について、教団本部に第一回目の報告をする期日だという。わたしには、そういうことをコーブ事務局次長から言われたかどうか、記憶が定かではないけど……
「急いでください。間に合いません。とにかく、急いで、急いで、急いで!」
「本当なの? でも、少しくらいの遅れ……いえ、かなり遅れたからって、別に支障はないんじゃ……」
「ダメです! 今日のお昼に報告するということに、え~っと、事務局次長に、え~っと、え~っと……、確か、そうだったはずです」
アメリアはわたしを無理矢理引き起こし、乳幼児を相手にするように、銀の刺繍の施されたアイボリー色の衣服を着せた。
「お姉様、また、しばらくの間、会えなくなるのですか。でも、お勤めなら、仕方がないですね」
いつの間にか、アメリアの傍らには、寂しそうな顔をしたアンジェラが立っている。
「そうです、大切なお勤め……、アンジェラさんの方が、よく分かっていらっしゃる。え~っと、唯一神に捧げるべき大切なお勤めなのですよ、カトリーナさん」
アメリアは、アンジェラに便乗するように言った。でも、お勤めを唯一神に捧げるって?
「あの、アメリアさん、ひとつ疑問なのですが、お姉様のお勤めが、唯一神と、具体的に、どういうふうに関係するのでしょうか?」
と、アンジェラ。図らずも、彼女がわたしの代わりに突っ込みを入れてくれたようだ。
「『具体的に、どういうふうに』ですか。それはですね……、え~っと、具体的に……、つまりは……」
アメリアは返答に窮している。あまり……いや、まったく考えずに喋ってしまったのだろう。
その時、ノックの音がして、ドアが開き、
「実は、屋敷の裏口に、見慣れない馬車が停まっているのですが、カトリーナ様、いかがいたしましょう」
と、パターソンが顔を出した。
すると、アメリアは、「ハイハイハイ」と手を挙げ、
「それは、唯一神教の馬車です! きっと、迎えに来てくれたんです!! 絶対、間違いありません!!!」
彼女はわたしの手を引き、「さあ、急いで、急いで」と、玄関に向かう。うまいタイミングで、パターソンが格好の「逃げ道」を用意してしまったようだ。
わたしは、アメリアに半ば拉致されるような形で、プチドラを抱き、裏口で唯一神教の馬車に乗った。パターソンもアメリアの勢いに押されたのか、外から馬車のドアを閉める際に、苦笑しながら「カトリーナ様、お気をつけて」と言うので精一杯。アンジェラも、パターソンの背後から、彼と同様に苦笑しながら手を振っている。
こうして、非常に慌ただしく準備が整ったところで、御者が馬に鞭を当て、馬車はゆっくりと進み出した。でも、送迎車付きはともかく、ゆっくりと食事をする時間の配慮くらい、してほしいものだ(と、馬車の中で、思わずため息)。




