久しぶりの屋敷
屋敷の門の前で馬車を降りて待っていると、不意に、門がゆっくりと開き、
「怪しいヤツ……とっとっとっ!?」
顔を出したのは、ブロンドの髪と青い瞳の駐在武官のリーダー、パターソンだった。門の前に怪しげな馬車が停車したので、慌てて飛び出して来たのだろう。
「ああ、これは、カトリーナ様、失礼いたしました。お戻りになりましたか。しかし、そのいでたちは……、ユニフォームですか。なかなかお似合いですが、どういう経緯なのでしょう。それに、こちらの女性とは、一体、どのような?」
すると、アメリアは、大きく息を吸い込んで気合いを入れ、
「アメリア・ベイカーです。え~っと、カトリーナさんのお世話係を仰せつかっています」
「これは、どうも、ご丁寧に。私はジュリアン・レイ・パターソンです。」
パターソンは、やや戸惑いながらも、軽く会釈。でも、こんなところで立ち話をしていても、仕方がない。
「とりあえず、中に入れてよ。話はそれからよ」
わたしはアメリアを連れ、屋敷の応接室のソファに腰を下ろした。すると、アメリアは、周囲をぐるりと見回し、
「これが、カトリーナさんの…… え~っと……、すごいです、とても! それ以外、なんとも、言いようがなく、え~っと、え~っと……、とにかく、すごい!!」
わたし的には、どこが「すごい」のかよく分からないが、一般庶民から見れば、この屋敷に置ける程度のインテリアや調度品でも、そう映るのかもしれない。
しばらくすると、アンジェラがお盆の上に3人分のケーキと紅茶を乗せて入ってきて、
「お姉様、お帰りなさい。お姉様の大好きな『おやつ』です。このところ評判になっているティラミス、とってもおいしいですよ」
と、それらを机の上に並べた。わたしとアンジェラとアメリアの分のようだ。
「へぇ~、そうなの……」
と、わたしは、ティラミスをひと口。その味は、ほどよい甘さの中に上品な気品を感じさせ、なかなかのもの。さすが、評判になるだけのことはある。教団ではロクなものを食べさせてもらえなかったこともあり、思わず目頭が熱くなってくるような感じ。
なお、わたしの隣では、アメリアが「うぉー」と叫び声を伴って立ち上がり、
「こんな美味しいもの初めてです! え~っと……、生きててよかった!!」
と、大げさに喜びを、しかも全身で表現している。
この、言ってみれば、常識的な線を超えた喜びようには、遅れて応接室に入ってきたパターソンも(大いに驚いたのか)思わずのけぞって2、3歩後ろに退き、アンジェラもビクンと体を震わせてわたしの方に体を寄せた。
わたしはパターソンとアンジェラを両手で招き寄せ、ゴニョゴニョゴニョと……具体的には、わたしがエリート信徒として教団本部勤めとなり、二重スパイとして宮殿に出向くことになったこと等の状況を説明。パターソン及びアンジェラは、ようやく納得したように、「なるほど」とうなずいた。




