やっぱりバレてた
コーブ事務局次長は、いつものとおり無駄なことは言わず、声のトーンも実に落ち着いていた。もしかしたら、万に一つの可能性として、今回呼ばれたのが、わたしの危惧していることとはまったく関わりないということも……
「エリート信徒カトリーナ・ウッド及びお世話係アメリア・ベイカー、入ります」
アメリアはドアを開けた。なお、「カトリーナ・ウッド」は、教団向けの偽名。
コーブ事務局次長の部屋に足を踏み入れると、いきなり、事務局次長及び10人のエリート信徒(加えてお世話係)の冷たい視線が注がれた。予想どおり、わたしの正体がバレていたようだ。マーチャント商会会長の目はフシ穴ではなかったのだろう。コーブ事務局次長との話の中で、「エリート信徒に知った顔がいる」などと、(多分、有料で)情報を事務局次長に伝えたのだろう。
この期に及んでは、言い逃れはできなさそうだ。でも、とりあえず、わたしはすっとぼけた態度で、口調も穏やかに。
「コーブ事務局次長、『大事な話』とは、一体?」
「それは、あなたが一番よく知っているはずよ。いえ、知らないとは言わせないわ」
「……と、言われましても、知らないものは知らないので、どうしたものかと」
「正直に話せば、悪いようにはしないわ。ただ、もし、あなたひとりで10人のエリート信徒を相手に勝負する気があるなら、どうぞ、ご随意に。この中には、あなたのように、戦闘や攻撃魔法が得意なのもいるからね」
チラリと周囲に目を遣ると、エリート信徒たちが、それぞれの流儀で身構えていた。
プチドラは、わたしの肩にスルスルっとよじ登り、耳元でそっとささやく。
「マスター、ここにいるエリート信徒たち、個々の実力は平均的なレベルだろうだけど、10人も寄れば、それなりに脅威かも。先制攻撃で不意打ち的にやっつける?」
「そうね……、でも……」
いきなり一撃必殺でエリート信徒を皆殺しにすれば、勢い、教団本部を完全に破壊しなければ済まない流れになる。帝国宰相からは、「こっそりと、秘密裏に、誰にも覚られないように」と厳命されているし、こんなところで大立ち回りを演じるのは好ましくない。やはり、戦闘以外という意味で、平和的な解決手段を模索するよりないだろう。
わたしはコーブ事務局次長を見上げ、
「あの~、本当に、正直に話せば、悪いようにしないのですか? 絶対に?? 唯一神に誓って???」
「もちろん。唯一神にかけて誓うわ。ここにいるエリート信徒が証人よ」
コーブ事務局次長は、ハッキリと、また、キッパリと言った。
「でも…… あ~…… う~……」
わたしは口をモゴモゴとさせながら、しかし、しばらくの間、沈黙していた。本当に、包み隠さず、「帝国宰相から教団の違法行為の証拠捜しを頼まれた」と、喋ってよいものだろうか。簡単に「唯一神にかけて誓う」と言われても、わたし的には、それを額面どおりに受け取ってよいとは思えないが……




