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講演会が終わって

 講演会は、マーチャント商会会長の1時間程度の話の後、30分程度の質疑応答という形で行われ、最後にコーブ事務局次長が謝意を述べて終わった。会長は終始無表情で、質疑応答の際にも極めて事務的に答えていた。もしかして、本当に、わたしに気がついていないのだろうか(有り得ないとは思うけど、かすかな希望をつなぎたい)。

 こうして、プログラムが終了すると、コーブ事務局次長は講演料の話でもするのか、マーチャント商会会長を伴って、教団本部の長い廊下の奥へと消えていった。

 長時間に及んだ拘束から解放され、わたしは「ふあ~」と腕を伸ばし、深呼吸。

「いや~、勉強になりました。え~っと、企業経営って、難しいものなんですねえ」

 一方、アメリアは素直に感動を表現している。話の内容を理解しているかどうか知らないけど、また、どのように理解しているのかサッパリ分からないけど……


 講演会終了後は自由行動とのこと。わたしとアメリアは、とりあえず自室に戻り、くつろぐことにした。今日の違法行為の証拠捜しは休みとしよう。このところ、経理セクションでも人事セクションでも、さほど歓迎されているようには見えないし、今日は何よりも、能動的に動く気になれない。

 ベッドに寝転がって見るともなしに天井を見上げていると、しばらくして、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。アメリアがドアを開けると、一般信徒が顔を出し、アメリアの耳元でボソボソと何事かつぶやく。

 その一般信徒がドアを閉めて立ち去ると、アメリアは、わたしに顔を向け、

「カトリーナさん、コーブ事務局次長が大事な話があるので、お呼びとのことです。それで、え~っと、え~っと……、とにかく、至急、事務局次長の部屋まで来るようにと」

 わたしは、内心、ギクリ。マーチャント商会会長からコーブ事務局次長に、わたしの正体が伝わったのではないか。予想はしていたけど、その時になってみると、さすがに……

 アメリアは、せわしくわたしの手を引き、

「どうしたのですか? 事務局次長に怒られちゃいますよ。さあ、早く、早く」

 わたしは「あ~」とか「う~」とか言いながら、プチドラにチラリと目を遣った。プチドラの魔力があれば、今ここで逃亡することは難しくない。しかし、教団への潜入捜査という格好のシチュエーションは、今後二度と現れることはないだろう。危険だけど、ここは踏みとどまり、当たって砕けろの精神でいこう。わたしはちょっとした覚悟を決め、アメリアを先導にコーブ事務局次長の部屋に急いだ。

「それにしても、『大事な話』って、なんでしょう。え~っと……、カトリーナさん、どう思います?」

 事情も何も知らないアメリアは、無理もないことだけど、本当に脳天気。


 程なくして、わたしとアメリアはコーブ事務局次長の部屋の前に到着した。アメリアがコンコンとドアをノックすると、ドアの向こうから、

「能書きはいいから、サッサと入りなさい」

 コーブ事務局次長の声が響いた。

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