猥談のような話
柱の陰に隠れていると、アート公、ウェストゲート公、サムストック公が、出っ張った腹を揺らし、機嫌よく談笑しながら歩いてきた。
「いや~、おふたかた、今回の人事は、いかがなものでしたかな?」
「可もなく不可もなしといったところでしょうな。しかし、戦いはこれからですぞ」
「左様。我々が力を合わせ、皇帝陛下を帝国宰相の魔の手よりお救いせねば」
何をそう盛り上がっているのかよく分からないが、関わり合いにならない方がよさそうな話だ。権力闘争とか宮廷騒動の類はゼロサムゲーム。巻き込まれないなら、それに越したことはない。「この三匹のブタさんたち、早く通り過ぎてくれればいいのに」と、そう思いながら、柱の陰でじっとしていると、不意に、一人が足を止め、
「ところで、ウェストゲート公、最近、新しい『彼女』ができたとか……」
すると、ウェストゲート公も足を止め、ニヤリとして、
「ほっほっほっ、いや、『彼女』というわけではないが、いや、なんとも…… なかなか魅力的な女でな。容姿だけではなく、庶民にしては、なかなか頭もいい。それにな……」
三匹のブタさんたちは輪になって、ヒソヒソと話を始めた。具体的な話の内容までは分からないが、時折、「ヒッヒッヒッ」とか、「ほっほっほっ」とか、「うひょー」とか、とにかく気持ちの悪い声が漏れている。
プチドラはサッとわたしの肩に飛び移り、わたしの耳元でささやく。
「一体、なんの話をしているんだろうね」
「さあ、なんでしょうね」
と、プチドラには言ってみたものの、話の内容は、大体、想像がつく。男が集まって「彼女」についてヒソヒソ言い合うとすれば、おそらく、猥談。それ以外には考えにくい。
やがて、ひととおり話が済んだのか、この三匹のブタさんたちは輪を解き、
「いや~、いつまでもお喋りしているわけにはいきませんからな。続きは次の機会に」
「一度、『彼女』に会わせていただきたいものですな。へっへっへっ……」
「そのうちにね。そのうちに。ほっほっほっ……」
この時の三匹の顔といったら、まさしくブタそのもの。思わず「オエ~」と吐き気が出そうになった。
三人(いや、三匹)は、気味の悪い笑い声を上げながら去っていった。ちなみに、プチドラは、まだ、この状況を把握できないらしく、
「なんだったんだろうね、マスター。あの三人、いつもそうだけど、今日は特におかしかったような……」
「あの人たちには、あの人たちなりに、いろいろと思うところがあるんじゃないの?」
わたしは適当に言葉を濁した。あまり口に出して言いたくない話だから。プチドラは、「はて?」と首をひねっている。ドラゴンに、こういった人情の機微に触れる話は理解しにくいのかもしれない。