不幸な老人の話
プチドラが、その老人の話として語るところによれば……
自分(老人のこと、以下同じ)は元々裕福な商人の生まれであるが、父親が事業に失敗して多額の借金を背負ったため、若くして奴隷として売られ、最初は、ガレー船のこぎ手としてムチャクチャにこき使われる日々を送った。
あるとき、こいでいた舟が海賊に襲われ、舟は沈められ、乗組員のほとんどはその場で殺されてしまった。自分は運よく殺されずに済んだものの、捕虜にされ、やがて、やはり奴隷として売りに出されることになった。海賊の話では、「おまえは、今度は剣闘士として、闘技場で戦うことになるだろう」という。しかし、自分は、戦闘スキルに関しては全然自信がない。そこで、スキを見て海賊のところから逃げ出した。
ところが、一人になってみると、その日の食事にも困ることになった。どうにも仕方がないので、たまたま傭兵を募集していたその地方の領主のところに、傭兵として志願することにした。というのは、一対一の対決ではなく集団戦なら、戦闘の最中でも、どこかでこっそりとやりすごすこともできるだろう、隠れていれば、殺されずに済むだろうと考えたから。その時は、ともかくも職を見つけなければということで、まったく不本意な決断だった。
こうして、傭兵生活が始まったわけだが、好戦的な領主に従って赴いた最初の戦争で、運の悪いことに所属していた部隊が壊滅し、一応、命だけは助かったものの、またもや捕虜にされてしまった。そして、捕虜にされた後で、敵側で人手(兵士)が足りないのか、今度は敵側の部隊に編入され、これまでの味方の部隊を攻撃するハメに陥り、それから、とにかく、いろいろなことがあって……(中略)……
波瀾万丈の人生、今までどうにか生きのびることはできたものの、年月を経るうちに、手足の肉は落ち、髪は真っ白になり、視力は衰え、歯は抜け、すっかりおじいさんになってしまった。のみならず、左の下半身が麻痺していて、杖なしでは歩くこともできない。家族はなく、社会からも見放され、もはや、帝都の埃だらけの通りで物乞いをして、死を待つだけという悲惨な境遇。
今日は、(物乞いとしての)より多くの稼ぎを求め、富裕層の住宅地に向かって通りを(杖をついて)歩いていた。その時、たまたま唯一神教と思しき馬車の車列を見つけたので、「これはいい、何かいいことがあるかもしれない」と思って、後を追おうとした。しかし、当然のごとく、自分の足では追いつくことができない。絶望に暮れていると、しばらくして車列が引き返して来るではないか。なんという奇跡、なんという千載一遇のチャンス。こういうわけで、危険とは知りつつ、車列の前に身を投げ出し、唯一神の慈悲を訴えかけてみたのだ。
「確かに、退屈な話ね」
わたしは苦笑しつつ、「ふぅ」とため息をついた。聞く前は気になって仕方がなかったが、聞いてみると本当に意味がなく、ハッキリ言えば、聞くだけ時間の無駄(あらかじめ予想できていたことだが)。実際に話を聞かされていたコーブ事務局次長は、どのようにこの場を取り繕おうか考えながら、話を適当に聞き流していたのだろう。




