事件の顛末
教祖様、エリート信徒(お世話係込み)及び聖戦士(出発したときの半数)を乗せた馬車の車列は、来た道を反対にゆっくりと進み、やがて、教団本部に到着した。
部屋に戻り、ベッドの上でごろんと横になってまどろんでいると(30分くらい眠っていただろうか)、突然、目に見えない何かに耳を軽くひっぱいられ、
「ただいま、マスター、今、戻ったよ」
わたしの耳元で、聞き覚えのある小さな声(と言うか、毎日耳にしていて間違えようのない声)がした。言うまでもないだろうが、これは、プチドラの声。偵察を終え、コーブ事務局次長の乗る馬車に便乗して、教団本部まで戻ってきたのだろう。
今現在、うまい具合に(あるいは御都合主義的に)、アメリアはトイレにでも行ったのか、部屋にいない。この間に、プチドラから首尾を聞いておこう。
ところが、プチドラは何やら億劫そうな顔をして、
「う~ん、結構長い話になるけど、聞く?」
と、どういうわけか、少々リラクタント。あまり話したくなさそうに見える。ということは、プチドラが目にした事実(あるいは耳にした話)は、本当に面白くなかったのか、あるいは、非常にえげつなかったのか。
強いて聞くほどのことはないかもしれないが、一旦気になり出したら気になって仕方がなく、聞かないでは治まらないということも人情だから、
「じゃあ、要点だけ、かいつまんで要領よく手短にお願い」
プチドラが「難しい注文を」と苦笑しながら語るところによれば、「お助けを」と叫んでいた老人は無一文であるが、自分の病気を治してもらうため、いきなり車列の前に飛び出して教祖様の祈祷を願い出ていたのだという。しかし、コーブ事務局次長が対応し、結論的には、やんわりと「また今度」という表現で、実質的にお断りしたとのこと。
「そうだったの。でも、そりゃ、そうでしょう。コーブ事務局次長の判断が正しいわ。いきなり『祈祷してくれ』で、タダで病気を治してもらおうなんて、その老人、本当に虫が良すぎるわ。そんなうまい話、あるはずがない」
わたしはプチドラの話を聞き、うんうんと(納得の意味を込めて)うなずいた。
「でも、それだけ? さっき『結構長い話』と言ってたのは、なんだったの?」
「それがね、話自体はとても単純なんだけど、老人の話が長くてね……」
プチドラは、まるでうんざりというような表情で、「ふぅ」とため息をついた。
「しかも、長いだけでなく退屈なんだけど、聞く? 本当に意味はないと思うよ」
意味がない話なら聞いても仕方がないし、無駄に字数を費やすこともない。本来ならば、相手にせずスルーするところ。でも、話をきかないと、おやつの「おあずけ」状態をダラダラと引き延ばされた感じで、気分がスッキリしない。
「意味はなくても……、まあ、いいわ。プチドラ、お願い」
わたしは「お願い」と言いながら、思わずため息。でも、たまには、意味なく字数を稼ぐ話というものがあってもいいのではないか。




