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ザ☆旅行記Ⅹ 神と神々の都  作者: 小宮登志子
第8章 教祖様の役割
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正体不明の老人

 馬車の窓から顔を出してみると、車列は、それなりの市民が居住してそうな清潔な住宅街で停止していた。先頭及び最後尾の馬車からは、聖戦士たちが(万が一に備えてか)揃いのメイスを持って次々と降りていく。

 コーブ事務局次長も、「一体、なんなのよ」と面倒くさそうな顔で、しかし動作は迅速に、馬車のドアを開け、通りに降り立った。

 車列の前方からは、

「どうか! どうか!! どうか、お助けを!!!」

 と、絞められた鶏のような老人の声が、通りに響いている。

 コーブ事務局次長は一旦車列の先頭まで歩き、状況を確認すると、聖戦士の馬車1台だけを残し、残りの馬車には、「慌てず騒がず教団本部まで戻るように。この老人には、自分(事務局次長)と現場に残る聖戦士が適切に対処する」との指示を出した。

 ちなみに、この時、教祖様は「自分も馬車から出て老人の相手をしたい」と言っていたようだが、コーブ事務局次長から「絶対にダメ」と言われ、馬車の中(奥の方)に押し込められたらしい(これは、後から人づてに聞いた話)。


 ともあれ、馬車の車列は、教祖様とエリート信徒(お世話係込み)及び聖戦士(の半分)を乗せ、教団本部へ向けて、ゆっくりと動き出した。

 わたしは、特に意味があるわけではないが、「ふぅ」とひと息、

「『お助けを』って、一体、なんなのかしら」

 馬車の車窓から通りを眺めてみると、丁度、コーブ事務局次長が老人の前に立ち、こんこんと教え諭している(と思しき)ところだった。

 アメリアも、車窓越しに窓の外に目をやり、

「あのお爺さん、え~っと……、なんなのでしょうねえ」

 と、正体不明の老人のことが気になっている様子。

 状況はよく分からないが、いきなり車列の前に出てきて「お助けを」とは、尋常ではない。強盗に襲われ、たまたま通りがかった馬車に助けを求めたようには見えなかったし、では、一体、(繰り返しになるけど)なんなのだろう。


 ただ、こういうときは……

「プチドラ、少し探ってきてくれる?」

 わたしはプチドラを持ち上げ、耳元でささやいた。プチドラは無言でうなずく。

「その後は、こっそりとコーブ事務局長の馬車に便乗して、戻ってくればいいわ」

 わたしはそっと馬車の窓を開け、プチドラを通りに放った。

 すると、アメリアは怪訝な表情を浮かべ、

「あの、え~っと、カトリーナさん、今、何を???」

「窓を開けたら、その拍子に、ペットが散歩に出たみたいなのよ。帰巣本能は並外れて優秀だから、そのうちに、きっと戻ってくるわ」

 アメリアは合点がいかなさそうに首をひねっているが、ペットを通りに放つ行為自体は違法でも犯罪でもない。アメリアの他に数人のエリート信徒にも目撃されているが、後々何か問われたら、「なんでもない」で押し通そう。

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