とっさにでまかせ
「アイタタタ……」
と、わたしが腰をさすりながら起き上がろうとすると、このような場合には、よくあるパターンとして、
「あなたたち、こんなところで何をしてるの?」
コーブ事務局次長がドアを開け、祈祷を依頼した男を伴って、わたしとアメリアの前に姿を見せた。
わたしは何食わぬ顔で、
「いえ、別に…… 実は、帰り際にお手洗いをお借りしようと思ったのですが、お手洗いを探しているうちに、道に迷ってしまいました」
「ふ~ん……」
コーブ事務局次長は、いぶかしげにわたしとアメリアをにらんでいる。疑っているのだろうか。ちなみに、お手洗いを云々とは、当然のことながら、とっさに思いついたでまかせ。
しかし、男はそれを真に受けたのか、人の好さそうな笑みを浮かべながら、
「お手洗いでしたら、そこの角を右に曲がって、そのまま真っ直ぐ、そして……(中略)……と、それで、角を曲がってすぐ、右手にございますよ」
「ありがとうございます。助かりました」
わたしはアメリアの手を引き、男が示した方向に歩き出した。ところが、しばらく進んだ先で、
「カトリーナさん、違いますよ。あの人が言うには、え~っと、左じゃなくて、右です。だから、そこは右ですって」
「あら、そうだったの、あなたがいると助かるわ」
信じがたいレベルの方向音痴のわたしだけど、ここはアメリアがいるおかげで、迷子にならずに済みそうだ。
ともあれ、わたしとアメリアは、一応「アリバイ作り」としてお手洗いを経由し、玄関に戻った。他のエリート信徒(お世話係り込み)及び教祖様は、その時には既に馬車の中。ただひとり、コーブ事務局次長だけが外に出て、馬車を背にして腕を組み、わたしたちを待っていた。
事務局次長は、わたしたちの姿を認めると、チッと舌打ちし、
「これで、ようやく全員揃ったのね」
と、わたしとアメリアが馬車に乗り込んだのを見ると、自らも馬車に乗り、出発の合図を送った。
馬車は車列を組み、ゆっくりと動き出した。車列の先頭と最後尾は、来た時と同じく聖戦士の馬車が固めている。馬車は来た道を逆に、大邸宅を出ると、きらびやかな高級住宅地を抜け、それなりに清潔な区画へと入っていった。
「教祖様の奇跡の力を間近で見られるなんて、感激です。え~っと、今日は本当に、一生忘れられない日になりそうですぅ~」
アメリアは、馬車の中で先刻の「奇跡」を思い返しているようだ。
その時、突然……
ヒヒィ~~~ン!!!
馬の高くいななく声が聞こえ、馬車は急停止した。なんだろう。何かが起こったことは間違いないが、一体、何が???




