最も大切な学習
学習会の中で、最も重視されていた(と思われる)のが、教祖様ご臨席の下での、奇跡の力を鍛える練習だった。その際には、どこで調達(微妙な表現だけど)してきたのか、怪我人や病人が学習会用の部屋に運び込まれ、エリート信徒が奇跡の力を用いて、怪我や病気の治療を行うことになる。なお、怪我や病気といっても重篤なものではなく、最も重傷あるいは重病といえるもので、骨折や肺炎といったところ。
コーブ事務局次長によれば、「世の中には怪我や病気で困っている人がたくさんいる。その人たちに、一人でも多く、唯一神の力を注ぎ込み元気に生きてもらうことが、唯一神の御心にかなう」ということだけど、怪我や病気の治療は、早い話、新たな信徒を獲得するための手段ではないか。エリート信徒として(一般的な用語で言えば)魔法使いを集める理由も、この辺りにあるのだろう。
コーブ事務局次長は、奇跡の力を鍛える練習には常に立会い、エリート信徒が用いる奇跡の力(一般的な用語は「治癒魔法」だけど)の程度を丹念に観察していた。
ちなみに、わたしの場合……、プチドラを抱き、ジェスチャーだけでも精神集中しているような雰囲気を出しつつ、
「では、気合いを入れて…… えい!」
「うっ! うげっ!!」
「あら、失敗したようです。失礼いたしました」
わたしが示す奇跡の力は、実際にはプチドラの治癒魔法だけど、プチドラも治癒魔法は専門外(というか、むしろ苦手としている)。そのため、足首の捻挫を治そうとしてアキレス腱を断裂させるような失敗は、言わば「朝飯前」。
コーブ事務局次長は、わたしが失敗するたびに「はぁ-」と大きくため息をつき、
「あなた、真面目に力を使ってるの? まあ、得手不得手は当然あるけどさ……」
と、半ば愛想を尽かしているような言いよう。
アメリアは、事務局次長がため息をつくたびに「ごめんなさい、ごめんなさい」と、まるで自分のことのように謝っていた。
ともあれ、(夕食やお風呂等を含め)一日のお務めが終わり、二人部屋のベッドで横になると、わたしは、この数日のパターンで、「さて、どうしたものか」等々、独り言。
すなわち、教団本部に潜り込めたのはいいが、潜入の目的は、帝国宰相の求める教団の違法行為の証拠を見つけること。でも、一体、どこから手を着ければいいのだろう。倉庫に武器をかくして「反乱用」の張り紙でもしてくれていれば話は早いけれど、そう簡単にいきそうもない。
ちなみにアメリアは、わたしがベッドに入った後も、壁際に置かれた机に向かい、紙の上にペンを走らせている。日誌をつけるのがお世話係の役割らしい。ただし、エリート信徒自身はその日誌を見てはならないという。政治将校による党本部への報告書みたいなものだろうか。とはいえ……
「え~っと、今日は、朝、定刻に起きて…… いや、そうじゃなかった。ここは……」
日誌を仕上げるまでの間、アメリアの、ぼやきともうめきともつかぬ声が聞こえてくるので、その中身は丸分かりだったりする。




