帝国宰相の難解な手紙
唯一神教なる集団を目にしてから、2、3日後、
「お姉様、おはようございます」
アンジェラがわたしの朝昼兼用食をもって部屋を訪れた。
わたしは寝ぼけ眼をこすりつつ体を起こし、
「おはよう、アンジェラ…… 本当に、もう朝なの?」
「もう朝……いえ、もうすぐお昼ですよ」
お昼ならば仕方がない。おなかもすいてきたことだし、そろそろ起きて仕事を……すなわち、このところのルーチンワーク、帝都大図書館まで書写に出向くことにしよう。
ところが、今日はいつもと様相が少し違うらしく、
「お姉様、実は、パターソンさんから言付かったのですが、これをお姉様に渡してほしいと」
そう言ってアンジェラが取り出したのは、厳重な封印が施された手紙。差出人として、大きな字でハッキリ「帝国宰相」と記載されている。
「今朝方、帝国宰相の使者がお見えになりました。パターソンさんは使者と少し言葉を交わし、うれしそうな顔をされてましたが、これは、なんなのでしょう」
アンジェラはしげしげと手紙を見つめた。
わたしは手紙の封印を(何を思ってか、三重に施されているが)解き、中身を確認してみた。帝国宰相独特の装飾過剰かつ持って回った言い回しのため、何を言いたいのかイマイチよく分からないが、大意は「リチャード皇帝陛下即位に伴い、新たに文武百官の任命が行われることになったので、いつでもいいから宮殿まで来い」ということのようだ。
「本当に、あの爺さん、いつもわけの分からない理由で人を呼びつけるんだから……」
わたしは「ふう」と小さく息を吐き出すと、とりあえずはプチドラを抱き、アンジェラを伴って、パターソンがいるであろう応接室に向かう。
応接室では、パターソンがニコニコとして待ち構えていて、
「カトリーナ様、手紙を読まれましたか。いかがでしたか? 今までは無官でしたが、今度はどのような官職に就くことになったのですか?」
パターソンは、手紙を受け取る際の使者との立ち話で、近々文武百官の任命が行われるという情報を得たらしい。
「任免の話らしいけど、具体的なことは何も書いてなかったわ。読んでみる?」
わたしは帝国宰相の手紙をパターソンに手渡した。パターソンは苦笑しつつ手紙を広げ、「うーん」とうなり声を上げながら、難解なその文面と格闘している。
「どう? 分からないでしょ」
パターソンは、「ははは」と苦笑するばかり。彼にも分からないということは、この手紙、誰が読んでも理解できないのではないか。
でも、それはそれとして、文武百官とは、つまり、爵位とは別の、帝国政府内での役職のこと。パターソンは喜んでいるが、「高い官職がもらえる」ということは、帝国政府の仕事をしなければならないということであり……
なんだか、気が重くなってきた。