コーブ事務局次長
「では、事務的な事項について、若干、私から説明するわ」
コーブ事務局次長がおもむろに口を開いた。年は30代。凜とした態度や落ち着いた話しぶりは、仕事のできるキャリアウーマンを思わせる。ちなみに髪型は、教祖様とは違い、スッキリ・サッパリとしたショートヘア。
事務局長は、ピッタリ5分で話を終えると、
「以上です。何か質問は?」
「えっ!? あっ……いえ、え~と……、そうですね、特には……」
わたしはあたふたとして言った。というのは、つい、コーブ事務局次長に見とれ、話をほとんど聞いていなかったから。
「あら、そうなの。それじゃ、さっき話したように、身の回りのお世話係をひとり、早急に選んでおいてね」
わたしは、一応、分かったような顔で「はいはい」とうなずいた。しかし、実は、なんのことだかサッパリ分からなかったりする。
プチドラは、サッとわたしの肩によじ登り、声が漏れないように注意しながら、
「話によれば、マスターはエリート信徒として教団本部で共同生活することになるけど、その際の身の回りの世話をする人、つまり『付き人』を、ひとり連れていくことができるんだって。教団信徒に限られるそうだけど」
エリートに付き人がつくなんて、教団は、思いの外、権威主義的なところがあるのだろうか。ただ、教団の組織としては、教祖様を頂点としたヒエラルヒーだから、そういうこともあるかも……と、そんなことを考えていると、チャック支部長がわたしの方を向いて、しきりに手のひらを小さく上下左右に動かし、何やら合図を送るようにしているのが見えた。「わたしに対する用は済んだので、仕事に戻るように」というジェスチャーだろうか。
わたしは教祖様(及びエドウィン・キャンベル事務局長とレベッカ・コーブ事務局次長)に向かって一礼し、支部長室を出ようとした。
すると、コーブ事務局次長がわたしを呼び止め、
「あなたの持っている、その生き物、初めて見るけど、一体、なんなの?」
「これは、え~っと…… 母の形見の南方の珍しい生き物です」
コーブ事務局次長は「ふ~ん」と、まるで研ぎ澄まされたソードのように鋭い視線で、わたしをジ~っと見つめている。この人、結構、油断がならないかも……
支部長室を出ると、外ではアメリアがそわそわしながらわたしを待っていた。わたしは指でマル(○)印を作り、
「エリート信徒としての本部採用は、既定路線として決まってたみたいよ」
すると、アメリアは自分のことのように大喜び。ならば……というわけではないが、付き人はアメリアに頼むことにしよう(と言うか、他にいないし)。その話をした時のアメリアの喜びようといったら、本当に、卒倒しそうなくらい。
それから程なくして、教祖様、エドウィン・キャンベル事務局長及びレベッカ・コーブ事務局次長は視察を終え、教団本部への帰途についた。なお、ついでのようだけど、わたしもプチドラを抱き、アメリアを連れて、教祖様たちに同行することになった。




