実は相当のぼけキャラ
教祖様のお出迎えが終わると、信徒たちは興奮さめやらぬ様子で、それぞれの持ち場に戻っていった。
「ああ、教祖様があんな間近に! 今日は生涯一番の幸せな日ですぅ!!」
アメリアは感動の余韻に浸っていて、仕事が手につかないようだ。しかも、それは彼女だけではなく、至る所で信徒がうっとり(又は、ぼんやり)として、虚空に視線をさまよわせている。チャック支部長としては、きびきびと働く信徒の姿を教祖様に見せたかっただろうが、このような状況では、説明に苦慮していることだろう。
しばらくすると、信徒のひとりがもたもたと(まだ教祖様に酔いしれているのだろうか)わたしのもとに駆け寄り、「支部長がお呼びなので支部長室まで来くるように」という旨を告げた。
すると、アメリアは、なぜか「ヨッシャー!」と気合いを入れ、
「カトリーナさん、いよいよです! え~っと、わたしにはこうして応援するくらいしかできませんが、え~っと、とにかく、がんばって、がんばって、がんばって!! エリート信徒ですよ!!!」
わたしは、ちょっぴり引き気味に、
「ありがとう、がんばるわ。」
と、プチドラを抱き、アメリアのエールを背中に受けながら、支部長室に向かった。
支部長室では、教祖様及び壮年男女の二人組(つまり、エドウィン・キャンベル事務局長とレベッカ・コーブ事務局次長)を前に、チャック支部長が愛想よく、しかし長々と説明を行っていた。教祖様はにこやかに笑みを浮かべながら話に聞き入っているが、本当に支部長の言ってることが耳に入っているかどうか。
「……というわけで、このようになっておるわけでございまして、以上がこの支部の概要でございます」
ようやくチャック支部長の説明が終わったようだ。
教祖様は、支部長に「ごくろうさまです」と軽く会釈すると、わたしの方を向いた。そして、わたしをジーッと頭の上から足の先まで見つめ、
「あの~、この人ですか、先程の話に出てきました…… あ、あの~……」
教祖様は、ここまで言いかけて言葉を止め、ニッコリ(一体、なんなんだ?)。すると、隣に座っていたコーブ事務局次長が、教祖様の耳に口を近づけ、何やらゴニョゴニョとささやく。教祖様は2、3度うなずき、深呼吸。そして、わたしに向かって、もう一度微笑みかけ、
「あなたがカトリーナ・ウッドさんですね。先日は、唯一神の奇跡の力を呼び起こし、『武装闘争団』から信徒たちを守ってくれたとか。あなたのような人が仲間に加わってくれるなんて、本当に心強いです」
教祖様はホッとしたように、小さく息をはき出し(なお、「武装闘争団」は「武装盗賊団」の誤りで、「カトリーナ・ウッド」は対教団用の偽名)、その瞬間(ほんの一瞬だけど)、隣に座っていたコーブ事務局次長がチッと顔をしかめた。いつだったか、一般大衆向けの演説の時もとちってたけど、この教祖様、実は相当のぼけキャラかもしれない。




