教団のユニフォーム
支部長室には、簡素な事務机、来客用のソファと椅子が置かれていた。
チャック支部長は、わたしに椅子を勧めると、
「カトリーナさん、ようこそいらっしゃいました。決心はつきましたかな?」
「はい。今後はエリート信徒として、唯一神教のため、すべてを捧げる覚悟で、勤め先の主人からも、お暇をいただいてきました」
「よくぞ決心なされた! すばらしい、これぞ唯一神の思し召しです!!」
チャック支部長は、感動的にわたしの手を取って言った。そして、アメリアに何やらゴニョゴニョと耳打ちすると、わたしの方に向き直り、
「支部の雰囲気で気付かれたかもしれないが、実は、本日、教祖様がこの支部においでになる予定なのです。その場で、カトリーナさん、あなたをエリート信徒に推薦することとしているので、心しておかれるよう願いますよ」
支部長の話によれば、この日、教祖様を含む教団最高幹部が、この支部を訪れ、布教活動等に関する説明聴取、視察等を行うらしい。最高幹部がやって来るのなら、支部のドタバタぶりも理解できるというものだろう(くれぐれも粗相があってはならないという意味で)。
支部長の話が終わると、その時、アメリアが「失礼します」と、脇に衣類のようなものを抱えて支部長室に戻ってきた。
「どうぞ、これがカトリーナさんの…… え~っと、サイズは合うと思いますが……」
と、彼女が差し出したのは、アイボリー色をした教団のユニフォームだった。
わたしは「ありがとう」と衣服を受け取りながら、ただ、いかにも安っぽいゴワゴワとした手触りにガックリ(そもそも期待するだけ無駄というものだろうか)。
「では、私はこれにて外します。教祖様たちをお迎えする準備をしなければならないからね。アメリアさん、あとは頼みましたよ」
チャック支部長は、アメリアの肩を軽くポンとたたくと、支部長室を出た。
わたしは、チャック支部長の去った支部長室にて、(あまり気が進まないが)教団のユニフォーム、アイボリー色の衣服に袖を通した。
「カトリーナさん、申し訳ないですが、少し急いでください。え~っと……、つまり、今がとても大変な、具体的に何がどうかは難しいですが、とにかく……」
わたしの傍らでは、アメリアがまるで応援団のように、着替えを急かしてくる。彼女の要領を得ない話によれば、教祖様御一行がこの支部に到着する予定の時刻まで、現在あまり時間的余裕がないらしい。ちなみに、3日前のわたしとチャック支部長の合意事項「正式な回答は3日以内にチャック支部長のいる教団支部を訪れて行うこと」について、チャック支部長が先刻まで(わたしが支部を訪れるまで)ひどく後悔し、「3日後の正午までにしておけばよかったか」と、ぼやいていたとか。
ともあれ、あまりパッとしない教団のユニフォームへの着替えを終えると、わたしはアメリアに連れられ、教祖様御一行の出迎えに向かうこととなった。




