教団本部勤めの開始
チャック支部長から、エリート信徒としての教団本部勤めを提案され(約束させられ)、その3日後の朝、いや、昼前になって……
「お姉様、おはようございます。でも、もう昼前ですよ。今日は大事な御用の日だったはず。そろそろ食事をして、その準備をしないと……」
アンジェラがわたしの朝昼兼用食をもって、部屋を訪れた。
「……あっ、アンジェラ……、おはよう、そうだったわね、今日は……」
わたしは寝ぼけ眼をこすりつつ、ベッドの上で体を起こした。今日はチャック支部長との約束の日、教団支部にて先日の提案に係る正式な回答を行うこととなっている。
ちなみに、この日の朝昼兼用食のメニューは、帝国西部の砂漠地帯に生息するという砂トカゲの卵を使ったスクランブルエッグ、近頃帝都の富裕な商人の間で人気のオシャレな菓子パン、北方の荒海で揉まれた海草のサラダ。わたし的には質素な食事のつもりだけど、教団本部の食事はもっとわびしいものかもしれない。わたしは今後の食生活に思いを致し、思わず「ふぅ」とため息。
ともあれ、わたしは朝昼兼用食を食べ終えると、くたびれたメイド服を着てプチドラを抱き、いつものような調子で(途中まで馬車に乗って)、いつもの教団支部に向かった。
そして、「唯一神教」という大きな看板がかかった教団支部の前まで来てみると……
「あら、カトリーナさんではありませんか、丁度いいところにいらっしゃいました!」
何やら忙しそうに支部に出たり入ったりしていたアメリアが、わたしの姿を認め、声をかけた。アメリアは、わたしの返答を待つことなく、いきなりわたしの腕を取り、
「さあさあ、こちらへ。チャック支部長がお待ちです」
と、有無を言わせぬ調子で、わたしを支部の中に、文字どおり、引きずり込んだ。
ただ、今日の教団支部では、ドタバタと慌ただしいのはアメリアだけでなかった。他の教団信徒も同様に、書類や袋を抱えて廊下を行ったり来たりして、「ここはこうだ」「いや違う」「そうじゃない」みたいな、騒々しい雰囲気に包まれている。
わたしはアメリアに腕を引かれながら、
「あの~、今日はイベントでもあるのでしょうか。皆さん、ドタバタと……」
「はい、そうなのです。今日は教祖様がおいでになるので、え~っと……、その予定なので、とにかく、その準備とか、いろいろと大変なのです。加えて、え~っと、カトリーナさんにとっても、今日はとても大切な……、とにかく、チャック支部長のところへ……」
何が言いたいのかイマイチ判然としないが、チャック支部長からは、もう少しまとまった話がきけるだろう。
アメリアは「支部長室」とのネームプレートがはめ込まれた部屋までわたしを案内し、
「チャック支部長、カトリーナさんをお連れしました。よかった、間に合って……」
「ああ、アメリアさんですか。ごくろうさま。そして、カトリーナさん、ようこそ」
支部長室にいたのは、今まで(教祖様を迎えるために)忙しく指示を出していたのだろう、(何の前触れもなく現れたわたしを迎えるために)急ごしらえの笑みを満面にたたえたチャック支部長だった。




