これまでの調査によれば
「それと、もう一つ……」
と、言いかけて、わたしは(特に意味があるわけではなく)思わずため息をついた。パターソンとアンジェラは、その「ため息」の意味をはかりかね、首をひねっている。でも、謎かけで時間をつぶしても仕方がないので、
「わたしが『エリート信徒』だってさ。いい加減にしてほしいのが本音だけどね」
「なっ、なんと! エリート信徒ですか。それは、また、なんとも……」
パターソンは驚きの声を上げた。彼自身も、帝都駐在親衛隊員の調査等により、唯一神教エリート信徒の役割(教団本部に常駐し、教団の中枢として、教団の意思決定や重要事項の協議に参画すること)については、既に把握しているらしい。
「しかし、カトリーナ様が自ら教団本部に赴き、しかも、住み込みとは……」
「成り行きで、そうなっちゃったのよ。ただ、本部に潜り込む分、教団の機密情報に触れる機会は多いと思うわ。帝国宰相が求める教団の違法行為の証拠は、探しやすいかもね」
「確かに、それはそうですが……」
と、パターソンは、なおも納得できない様子。
わたしは「これは決定事項で、今更変更したら教団側から怪しまれる」と、無理矢理パターソンを言いくるめた上で、
「アンジェラ、しばらくの間、わたしはこの屋敷を留守にするけど(云々)……」
と、アンジェラに向かって(夏休み前によくある)生活上の注意みたいなことを少々。
「は、はい……、お姉様」
「そんな顔しないで。ほんのしばらくの間だから。用が済んだら、すぐに戻るわ」
アンジェラは心細げにわたしを見上げている。まったく心配ないとは言えないが、アンジェラは、(多分)わたしよりしっかりしているし、大丈夫だろう。
やがて、パターソンは、とうとう根負けした様子で、
「分かりました。カトリーナ様がそこまでおっしゃるなら……」
そして、彼はここで、一礼して小走りに応接室を出ると、しばらくして、今度は資料を片手に抱えて戻ってきた。
「では、唯一神教に限らず、これまでの調査で判明したところを報告いたします」
パターソンによれば、教団本部はスラム街ではなく、中流階級が多く居住するような閑静かつ清潔な住宅街の一角にあり、建物は4階建ての堅牢な石造りのビルディングらしい(ただ、その内部で何が行われているか、詳細は現在のところ不明)。
教団以外のことについては、ツンドラ侯が帝都の警察長官に正式に任命され、(忙しくなったのか)このところ屋敷にまったく顔を見せなくなったという(以前は時々、わたしのいない時に限って来ていたらしい)。また、新皇帝即位の際に催される「大盤振る舞い」については、現在、帝都市民への食糧の配給と見世物(闘技場での決闘)を軸に調整中であり、以前、帝国宰相とマーチャント商会会長が宮殿でもめていたのは、やはり行事の費用や報酬の関係で折り合いがつかなかったためであろうとのこと。さらに、ツンドラ侯がその見世物(闘技場での決闘)に大いに興味を示しており、今後、紆余曲折が予想されるとか。




