エリート信徒として働くことの同意
わたしは教団信徒の熱のこもった視線を浴びながら、
「エリート信徒ですか。それは光栄ですが……」
と、うつむき加減に、少し考えるフリをした。本当にわたしが「エリート信徒」として教団の本部に迎えられるなら、教団の秘密に触れる機会も出てくるだろうし、(帝国宰相が喜びそうな)教団の違法行為の証拠捜しも今までより容易になるだろう。願ったり叶ったりとは、まさにこのこと。
ただし、対教団的には、わたしは裕福な商人のところで働いているメイドとなっているはずなので、誘いを受けて即決でOKでは不自然だろう。
「あの~…… いきなり『教団本部で働いてほしい』と言われましても、こちらにも、現在の勤め先との関係等、諸々の事情がありまして……」
チャック支部長は、「うんうん」と何度かうなずき、
「なるほど、今日いきなりあなたが姿を消せば、奉公先の御主人も心配されるでしょう。ただし、あなたが唯一神教本部で働くということは唯一神の御心なのですから、奉公先の御主人にも、喜んで御了解していただけるはずです。では、本日は、お約束だけとして、実際に本部に赴くのは後日ということで、手続を進めさせていただきたい」
チャック支部長の顔からは、笑みが消えていた。分かりやすい人だ。おそらくは、わたしが「エリート信徒になる」と言うまで、わたしを解放しないつもりだろう。
わたしは、内心の「ニヤリ」を表に出すことなく、チャック支部長との間で、「本日は、わたしがエリート信徒として教団本部で働くことについて同意すること、正式な回答は3日以内にチャック支部長のいる教団支部を訪れて行うこと、その時までに現在の勤め先との労働契約関係を解消すること(事実上の解消、例えば勤め先からの脱走でも可)」という3点について合意し、その日はとりあえず屋敷に戻ることにした。
ただ、屋敷に戻る前に……
「ひとつ気になっていたことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「ええ、なんなりと。私に分かることなら、お答えしましょう」
「先ほど、わたしたちに襲いかかってきた集団なのですが、彼らは?」
この際なので、チャック支部長にきいておこう。アメリアと違って、少しは分かる話をしてもらえるかもしれない。
「彼らですか…… 彼ら武装盗賊団といって、忌むべき異教徒の輩なのですが……」
チャック支部長の説明によれば、武装盗賊団とは、支部で炊き出し等の布教活動を行っている最中に攻撃を仕掛けてくるなど、現在、この支部、ひいては教団本部とも、敵対的な関係にあるらしい。ただ、そんなことは説明してもらわなくても分かる。問題は、どうしてそういう敵対的な関係になったのかということで……
「あの~、疑問と申し上げましたのは、つまり、武装盗賊団が唯一神教に敵意を抱く理由は、一体、なんなのかということなのですが……」
すると、チャック支部長は、拳を握りしめて語気を強め、
「それは、もちろん、武装盗賊団に非があるからです。唯一神は、そういうことをお許しにならないのです」




