唯一神教
公園で、人々が駆けていった先にいたのは、アイボリー色のゆったりとした衣(お揃いのユニフォーム)に身を包んだ正体不明の集団だった。人々は、その集団を取り囲むようにして群がり、口々に「教祖様!」を連呼している。
アイボリー色の集団の中心には、(特別製なのだろう)繊細な金の刺繍が施されたアイボリー色の衣を身につけた少女(見た感じ、アンジェラと同年代)が、壮年の(30歳代であろう)男女を従え、にこやかな微笑をたたえて手を振っている。
「教祖様だ! 教祖様がいらっしゃったぞぉ!! うおぉぉぉーーー!!!」
公園の広場は、いつしかは群衆の活気と熱気が渦巻くワンダーランドへと変貌を遂げようとしていた。
わたしは、この異常な雰囲気に思わず身震いし、
「プチドラ、これって、なんだかヤバそうじゃない?」
「……と言うか、とってもヤバそうだよ。とりあえず、この場から離れる方が……」
怖いもの見たさの好奇心もあり、もうしばらく、この場でアイボリー色の異様な集団を観察していたい気もするが、あまり怪しげなものに近づかないのが生活の知恵というものだろう。今日のところは退散ということで、屋敷に戻ることにしよう。
そして、屋敷では、
「お帰りなさい、お姉様」
アンジェラがわたしの帰りを待ちわびていた。
「ただいま。で、これが今日の収穫」
わたしは風呂敷包から書物の写しを取り出し、アンジェラに手渡す。
アンジェラの傍らでは、パターソンがホッとしたような顔でわたしを出迎え、
「お帰りなさいませ、カトリーナ様。今日は少々お帰りが遅かったですね」
「そうなのよ、いろいろと。大したことはない……いや、そんなことはないのか」
わたしは今日の公園での出来事、すなわち、神がかり行者の話ではなく、公園に多くの人が集まり、熱狂的に「教祖様だ」と叫びつつ、アイボリー色の衣に身を包んだ異様な集団を迎えていたことを話した。
「一体、なんなのかしら、あの集団…… わけが分からないわ」
と、わたしは最後に、「ふう」というため息を一つ。
ところがパターソンは、「はいはいはい」と、心当たりがあるような反応で、
「カトリーナ様、それは、おそらく、『唯一神教』の布教活動の現場に出くわしたのでしょう」
「はあ? 『唯一神教』??」
「最近、帝都でのさばりだした……と言うと語弊があるかもしれませんが、カトリーナ様がバイソン市や南方に出かけられている間に、顕著に勢力を拡大してきた宗教団体です。教団自体は前からあったようですが。とにかく、自分たちが信仰する神が唯一絶対で、それ以外は認めないという、奇っ怪な教えを説く連中です。帝都では貧しい人々を中心に支持を集めているようですが、商業地区近くの公園まで布教にやってくるとは、連中の力も、なかなか、あなどれませんね」