戦闘の結末
唯一神教聖戦士と武装盗賊団との戦闘が始まると、聖戦士の後方からは、「そこだ、押せ」、「ひるむな、そこは踏ん張るんだ」など、チャック支部長の声が響き渡った。
しかし、戦況は、ハッキリ言って、芳しくない。見た目、筋肉マッチョで強そうな聖戦士たちだけど、シーフギルド「カバの口」のエリート部隊である武装盗賊団が相手では、荷が勝ちすぎたようだ。時間がたつにつれ、聖戦士たちは、じわじわと後退を余儀なくされ、のみならず、聖戦士の側にのみ、犠牲者が一人、また一人と増えていった。
一般の信徒からは、聖戦士が血を流し倒れるたびに「ひぃー」と悲鳴が上がった。ちなみに、アメリアは顔面蒼白になって、その場に凍り付いている。
プチドラは小さな腕を組み、「ダメだね」というように首を横に振り
「マスター、このままだと聖戦士は全滅だよ。魔法で加勢する?」
「聖戦士なんて粋がってみても、所詮、素人よ。プチドラ、ここは、『わたしが魔法で武装盗賊団をやっつける』みたいな演出で、いきましょう」
わたしはプチドラを抱いて、ゆっくりと歩き出した。武装盗賊団は30人程度。これくらいなら、プチドラの魔法で一気に殲滅するのは、難しくないだろう。
広場では、聖戦士と武装盗賊団との戦闘が続いている。両者入り乱れての乱戦模様。聖戦士は、必死の頑張りを見せているものの、技量の差は大きく、今や10名以上の骸を広場にさらしている。武装盗賊団は、唯一神教の一般信徒に襲いかかる前に、まずは聖戦士を皆殺しにしようという態勢のようだ。
ほんの少し前まで元気いっぱいに声援を送っていたチャック支部長は、頭を抱え、「ああ~」と絶望的なうめき声を上げている。
わたしはプチドラを抱いてチャック支部長の脇を通り抜けると、思い切り息を吸い込み、
「武装盗賊団の皆さーん、もうそろそろ、終わりにしませんかぁ?」
すると、武装盗賊団は、その瞬間、攻撃の手を止めた。
「ほぉー、『終わりに』だと? それはどういう意味かな。よこしまなる教えを信奉し、我々に刃向かう、この者どもの人生を、『お終いに』ということかな。面白い! これは面白いぞ!!」
武装盗賊団のうち、一人(隊長かリーダー格だろう、ただ、みんな同じ格好をしているので分からないけど)は、「ははは」と大声で笑い出した。彼に続き、他の武装盗賊団たちも、(余裕なのだろう)同様に笑い声を上げた。なお、聖戦士たちは、その間、ボーッと突っ立ったまま。反撃に移ればいいのに、疲れたのだろうか。
ともあれ、武装盗賊団と問答していても時間の無駄。わたしはおもむろに右手を高く上げ、叫ぶ。
「唯一神の名において、異教徒に聖なる鉄槌を!」
すると、プチドラは、魔法の呪文だろう、口をモゴモゴと動かした。たちまち黒雲が垂れ込め、武装盗賊団の団員をめがけ、幾筋もの稲妻が走る。辺りは閃光に包まれ、すさまじい雷鳴が響き渡った。そして、次の瞬間には、30個ほどの真っ黒焦げの物体(すなわち、元は武装盗賊団)が転がっていた。




