炊き出し
その次の日、教団支部に行ってみると、支部前ではアメリアがまるで待ち構えるかのように立っていて、
「カトリーナさん、ようやくいらっしゃいましたか。今日は、え~っと……、とても重要なことなのですが、とにかく大変なので……」
と、いきなりわたしの手に調理器具の「お玉」を握らせた。わたしは唖然として言葉も出ない(漫画的表現では目が点という状態)。
「では、頑張って、行きましょう。唯一神の教えを一人でも多くの人々に!」
なんだかよく分からないが、アメリアだけでなく、他の信徒の話も総合すると、今日はスラム街で炊き出しが行われるようだ。唯一神教の教義(「入門編」)の学習がひととおり終わると、今度は「唯一神の教えの実践」と称する教団活動に加わることが信徒の責務だということで、早い話、わたしにも炊き出しを手伝えということらしい。
炊き出しの場所は、スラム街。つまり、唯一神の慈悲をスラム街に居住する人たちに示すのが目的だとか。布教の対象を帝都の高所得市民層に広げようとする中にあっても、スラム街での活動は、やはり重要なものらしい。
教団信徒一行は、大きな鍋や食器、食材等を荷車に乗せて教団支部を出ると、二列縦隊に隊列を組み、スラム街まで行進していく。アメリアは「さあ、元気よく、声を出して行きましょう」などと張り切っているが……
「疲れた~」
スラム街の炊き出しの会場(スラム街の中で、丁度、広場のようになっている)に到着した時には、わたしは既に疲労困憊だった。
そんなわたしとは対照的に、アメリアは元気いっぱい、
「さあ、カトリーナさん、え~っと…… これからが勝負ですよ!」
と、他の信徒とともに炊き出しの準備を始めている。
会場となったスラム街の一角は、ゴミや動物の死体等が散乱し、衛生的に見ると非常に問題があることは明らかだけど、信徒たちには気にならないようだ。
わたしは「ふ~」とため息をつき、仕方なく(自分だけ何もしないで突っ立っているのは不自然だから)、アイボリー色の衣服をまとった信徒の手伝いを始めた。なお、色的には、くたびれたメイド服を着たわたしだけが浮き上がっているような気もするが、信徒たちは、それを気に掛けるでもなく、
「新入信徒さんかい、がんばってね。」
などと、ほのぼのとした牧歌的な雰囲気を醸し出しながら、声をかけてくる。
炊き出しに集まってきたのは、言いにくいことをあえて表現すると、非常に貧しい(「汚い」という言葉が、より正確だろう)身なりをしたスラム街の住民たち(「路上生活者」、「ルンペン・プロレタリアート」と言い換えることもできよう)。わたしは心の中で「オエ~」と、何やら吐き気が……
するとアメリアは心配そうに、わたしの顔をのぞき込み、
「あの…… どうしたのですか? 顔色が優れないようですが」
「いえ、ちょっと……、非常にアバンギャルドな奉仕活動かなと思いまして……」




