「終局的裁判」の日
「え~っと……、これまでのところはよろしいでしょうか。もし、何か分からないところなどありましたら、どうぞ、なんなりと」
と、アメリアは胸を張った。分からないところ(突っ込みどころと言い換えてもいいが)なら、例えば「最初に唯一神ありきだが、唯一神を創ったのは誰なのか」など、数え上げていけばきりがない。でも、質問は止めておこう。教団内でしか通用しない理屈に対し、合理的な疑問や反論をぶつけてみても、不毛な議論に終わるのは目に見えている。
「では、え~っと、これから最も重要なところに入ります」
アメリアはグッと顔を近づけ、まじまじとわたしの顔を見つめた。
わたし的には「まだ続くの?」と、いい加減、うんざりだけど、表情には出さず、
「はい、よろしくお願いします」
と、ここは、優等生的発言。
アメリアは軽く咳払いをすると、ここぞとばかりに言葉に力を込め、
「先ほどお話ししました唯一神による『終局的裁判』ですが、実は、その時は、すぐ近くまで迫っているのです」
そして、顔をグッとわたしに近づけ、まじまじとわたしの顔を見つめた。話によれば、既に唯一神の教えを受け入れている人は、その「終局的裁判」の日が来ても安心だが、世の中には、唯一神の教えを知らない人、自発的に唯一神の教えを受け入れようとしない人たちも多い。したがって、「終局的裁判」の日までに、できるだけ多くの(可能ならばすべての)人々を唯一神の教えに導かねばならず、これが唯一神教信徒としての使命であるとのこと。
なお、その「終局的裁判」の日が近づくにつれ、国は乱れ、人々の生活は窮乏し、「ニセ唯一神」のような得体の知れない妖怪変化(神がかり行者のことだろうか)が大地に満ちるという。そして、「終局的裁判」の日に、唯一神を除く一切の価値は破壊され、現在この世界を支配している悪しき秩序は根底から覆され、唯一神に従わない者たちは地獄の火の中に投げ込まれるらしい。
「『終局的裁判』の日は来ます! 遠くない将来に!! その時まで、え~っと!!!」
本当にわけが分からないが、わたしはアメリアの勢いに押され、「わかりました」とばかりに、何度もうなずく以外なかった。
唯一神教支部での活動(勉強)を終え、屋敷に戻ると、パターソンとアンジェラが「おかえりなさい」と、応接室に紅茶とお菓子を用意して待っていた。
わたしは「ふぅ~」と大きく息を吐き出して、応接室のソファに腰を下ろし、
「ただいま。今日は特に疲れたわ」
そして、とりあえずはお菓子と紅茶を口に運びながら、
「唯一神教の信者が言うには、近いうちに唯一神の『終局的裁判』の日が来て、唯一神を信じていない人たちは、根こそぎ地獄の火の中に投げ込まれるんだって。この話、分かる?」
パターソンもアンジェラも、どう反応してよいものやら分からず、ただ「???」、唖然とするばかりだった。




