唯一神の創世記及び終末論
こうして、支部通いが何度か続いたある日のこと、
「それでは、え~っと…… 今日は、唯一神教の教えについて勉強しましょう」
アメリアは百科事典のように分厚い書物を応接スペースの机の上に置いて、言った。
「本当は、経典を最初から最後まで一字一句読み上げるのが基本なのですが、え~っと、なんと言うのか……、入ったばかりの人に、要点をかいつまんで説明するために……」
「……と言うと、つまり、入門編ですか」
「そうそう、それです。『入門編』です。カトリーナさん、頭がいいですね。それでは入門編として、唯一神が世界をお創りになったところから、かいつまんで説明します」
なんだか頼りない感じがするけど、大丈夫だろうか。
アメリアの話によれば、むかしむかしのこと……、ものすごく大昔、世界がまだ存在していなかった頃、唯一神のみが存在していた。唯一神は、あるとき、ふと思い立って、この世界を創造した。
創造されたばかりの世界には、広漠たる荒野が広がっているだけで何もない。唯一神は、ふと思い立って、土をこねて人形を作り始めた。唯一神が人形に命を吹き込むと、その人形は自らの意志を持ち、自由に動き出した。人形の中には出来の良いものも悪いものもあり、出来の良いものはヒューマン、エルフ、ドワーフなど光の側の住人に、出来の悪いものはゴブリン、オーク、オーガー、トロールなど混沌の側の住人になった。
ここまで来たところで、アメリアは、おもむろに身を乗り出し、
「これからが、いいところで、え~っと、なんて言うのかしら。こういう場合……」
「……と言うと、見せ場とか、山場とか、クライマックスとか?」
「そうです。それです。ここからが、見せ場、山場、クライマッ…… あっ、あれ!?」
なお、「あっ、あれ!?」は、アメリアがバランスを崩して倒れそうになって上げた声。
アメリアは、しかし、どうにか踏ん張り、
「失礼しました。いつもの悪い癖……、つい、話に力が…… え~っと、これから、見せ場、山場、クライマックスでしたね。それでは、この世界の終わりについて……」
アメリアはソファに座り直し、話の続きを始めた。「見せ場、山場、クライマックス」とは、詰まるところ、唯一神教の「終末論」の話らしい。
世界を創造したばかりで世界の終わりの話になるのはどうかという気もするが、それはともかく、アメリアの話によれば、世界の終わりには、唯一神による「終局的裁判」が行われ、唯一神を信仰する者は、唯一神の慈悲により永遠の生命を得て、唯一神の国で、永遠に唯一神とともにある。しかし、唯一神を信仰しない者は、恐ろしいことに、唯一神の手で八つ裂きにされ、地獄の火の中に投げ込まれるという。
どこかで聞いたような話だけど、わたしは賛同するでもなく、反対するでもなく、また、相槌を打つのでもなく、アメリアの話が終わると、とりあえずニッコリ。
すると、アメリアは困ったような表情になって、
「え~っと…… あの~…… ここ、笑うところじゃないんですけど……」
ともあれ、以上が唯一神教の「創世記」と「終末論」らしい。




