入信申込書
そして、次の日の夕方、わたしはくたびれたメイド服を着てプチドラを抱き、銀貨1枚を持って、唯一神教の支部に向かった。今現在手元にあるのは銀貨1枚ということにして、「とりあえず誠意だけでも示したい」ということで。
支部では、わたしは昨日と同じ応接スペースに通され、やはり昨日と同じく、チャック支部長が応対に出た。この人、他にすることがないのだろうか(言い換えれば、ヒマか?)。
支部長は、にこやかに笑みを振りまきながら、
「これはこれは、昨日のメイドさんですな。いかがでしたかな、うまくいきましたか?」
「おかげさまで、どうにかごまかせました。ありがとうございました」
「おお、それはよかった。唯一神の慈悲が、あなたを守り、のみならず、あなたたちメイド全員を守ったのです。これぞ唯一神の奇跡です。ありがたきかな!」
チャック支部長は、演技ではなく、本気で感動しているようだ。宗教家というのは、本当に、わけが分からない考え方をする。
でも、それはそれとして…… わたしはポケットから銀貨1枚を取り出し、
「それで、あの、その…… 返済の件ですが……実は、今、わたしの財布の中にあるのが、これだけなのです。残りは、いずれ、給料をいただいた時に、少しずつ、お返しいたしますので……」
わたしは恥じ入るように、銀貨を差し出した。すると、チャック支部長は、ゆっくりと首を左右に振りながら、わたしの手を押しとどめ、
「いえいえ、そんなに返済を急ぐ必要はありません。もし、今、私がこの銀貨を受け取ったとすれば、あなたは困ってしまうのではないでしょうか」
「まあ、確かに、そうではあるのですが……」
「お金の話は、またの機会にしましょう。それよりも、いかがですかな?」
その時、なんの前触れもなく応接スペースのドアがスッと開き、昨日わたしに声をかけた女性信徒が書類や荷物を抱えて現れ、チャック支部長の隣に腰掛けた。わたしはおびえたような表情を作り、二人の間に視線を行き来させた。
チャック支部長は、にこやかに笑みを絶やすことなく、
「あなたが支部にいらっしゃったのは、唯一神の御心が、私たちを引き合わせたからなのです」
女性信徒は、チャック支部長の話に合わせるように、机の上に書類を広げた。その書類には、字の大きさは控えめながら、「入信申込書」とハッキリ書かれている。入信を勧められるのは予想どおり。でも、このようにダイレクトに来るとは思わなかった。怪しいながらも怪しさを隠さないことから考えれば、犯罪結社的にムチャクチャ怪しいということは、ないかもしれない。
わたしは入信申込書を目の前に、「う~ん」と考えこむフリをして、
「入信させていただきたいのはやまやまなのですが、今の仕事を続けないわけにもいかず……」
「ならば、当面は非専業の信者として、仕事の合間に信者としての活動を行うということでいかがかな?」
チャック支部長の顔から笑みが消え、真剣な眼差しで、わたしを見つめていた。




