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ザ☆旅行記Ⅹ 神と神々の都  作者: 小宮登志子
第4章 潜入捜査
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唯一神の慈悲

 わたしが通されたのは、粗末なソファと机が置かれた応接スペースだった。板張りの床には、清潔に保たれているようだけど高級なものとは思われないカーペットが敷かれている。宮殿や屋敷などで高級な家具や調度品ばかり見慣れていたせいか、(一般庶民にとっては)中等の品質のものでも非常にみすぼらしく感じられる。「あまり贅沢するものではないな」と、一人で苦笑いしていると、

「すみません。お掛けになって、少々お待ち下さい」

 と、わたしを案内してきた信徒はペコリと頭を下げ、応接スペースを出た。


 わたしとプチドラ以外に誰も応接スペースにいなくなったのを見ると、プチドラは、ピョンとわたしの肩に飛び乗り、

「マスター、どうする気? もしかして、本気でお金を借りに来たわけじゃ……」

「さりげなく教団に近づくには、お金を借りるのが一番早いと思ってね。『取っ掛かり』としては十分でしょ。教団は、おそらく、信徒の数を一人でも増やしたいと考えてるはずよ。そのうち……例えば、お金を返しに来たときには、こちらから何も言わなくても、入信の誘いをかけてくると思うわ」

 でも、プチドラは、やや懐疑的のようだ。「そんなものかな」と、首をひねった。


 しばらくすると、わたしを案内してきた信徒が、中肉中背の愛想の良さそうな中年の男を伴って戻ってきた。

 男は、わたしを安心させるようにニッコリと笑うと、わたしの向かい側のソファに座り、

「話は聞きました。大変困っておいでのようですな」

「はい……、恥ずかしい話なのですが、本当に、どうにもならなくなって……」

 わたしは顔を伏せ、上目遣いで男の顔色をうかがうようにして言った。

 すると、男はウンウンと何度かうなずき、

「ああ、自己紹介がまだでしたな。私は、マイケル・チャック、当支部で支部長をしております」

 そして、ふところをゴソゴソとまさぐりながら、

「誰にでも過ちはあります。しかし、あなたはその過ちを告白された。当支部の前で、これは即ち、唯一神の前でということです。唯一神は寛容です。あなたは唯一神の慈悲により救われるでしょう」

 と、おもむろに金貨を3枚取り出し、机の上に置いた。

「これを、主人の財布の中に、こっそりと返しておきなさい。唯一神の慈悲があなたを守るでしょう」

 わたしは、3枚の金貨をまじまじと見つめながら、躊躇するフリをして、

「そんな……、本当にいただいて、よろしいのでしょうか。いくらなんでも、初対面の人に、そこまでしていただくわけには……」

 すると、チャック支部長は、ゆっくりと首を左右に振り、

「いやいや、これは『人』によるものではない。唯一神の慈悲の心によるものと心得なさい」

 と、無理矢理、わたしの手に金貨を3枚握らせた。宗教家というものは、本当に、一般人の理解力をはるかに超える発想をするものだ。ともあれ、この日は金貨3枚を受け取り、(支部から離れたところで)馬車に乗って、帰途についた。

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