いかに困っているかを
わたしは、内心の「ニヤリ」をおくびにも出さず、
「あの……、実は……」
と、言いかけたところで、少し間をおいて、考えるようなそぶりを見せ、
「いえ、なんでもないんです。やっぱり、急にこんなこと……、ぶしつけだわ」
そして、恥じ入ったように、教団の信徒にクルリと背を向けた。これも心理作戦のひとつ。言われなければ反対に聞きたくなるのが、人情というものだろう。
思ったとおり、その信徒は、わたしの前に回り、
「そんなこと言わずに、話していただけませんか。わたしたちにできることなら、相談に乗りますから」
「でも……」
わたしがなおも躊躇するフリをすると、その信徒は、「どうしたものか」と、少々困っている様子。
そうこうしているうちに、他の信徒たちも「一体、何事だろう」と、わたしとその信徒の周囲に集まってきた。そろそろ頃合いだろう。あまり引き延ばし過ぎると、かえって効果が削がれかねない。
わたしは、恥ずかしそうに目を伏せながら、
「実は、あの、とっても困ったことになってしまって……、金銭問題なのですが……」
と、涙ながらに、自分がいかに困っているかを訴えた。
もちろん、これは大ウソ。ちなみに、わたしの話の内容は次のとおり。
自分は、この近くの裕福な商人に仕えるメイドだが、止むに止まれぬ事情により、悪いこととは思いながら、主人の「貯金箱」から金貨3枚を内緒でこっそり拝借してしまった。というのは、自分の母親が病気になり、その病気の薬を買うために、どうしても緊急にお金が必要になったから。
主人は妙にキッチリとしていて、7日に1回、自分の貯金箱に入っている金貨の数を数える週間がある。前回数えたのが6日前だから、次に数えるのは明日。それまでにどうしても金貨3枚を工面しなければならない。
なお、主人は、お金にキッチリとしているが変態でもあり、もし、貯金箱からお金がなくなっていることが知れれば、逆上し、メイド全員を裸にして笞で打つだろう。わたしのせいでメイドみんなに迷惑をかけたくないが、お金がないのでどうにもならないし、すぐにお金を得る方法もない。だから困っていた(以上)。
わたしの話を聞くと、信徒たちは輪になって、何やらヒソヒソと話を始めた。わたしが今着ているのは、だいぶ前に使っていた質素なメイド服だから、身なりでウソがバレることはないはず。話の内容も、冷静に考えれば突っ込みどころがありそうだけど、人が好さそうで善良そうな信者のことだから……
しばらくすると、信徒たちの輪が解け、最初にわたしに話しかけた女性信徒が、
「あの~、お話は分かりました。でも、金貨3枚となると、大金なので、上の指示を仰がなければなりません。その間、外でお待ちいただくのも悪いですから、どうぞ、中へお入り下さい」
と、唯一神教支部の入り口のドアを開けた。




