取っ掛かり
ともあれ、パターソンの「おゆるし」が出たということで、
「それじゃ、早速、潜入捜査開始。『善は急げ』って言うし…… でも、何が『善』なのか突っ込まないようにね」
すると、パターソンは、驚いているのかあきれているのか、微妙な顔つきになって、
「あの~、危険が伴うことでもありますし、もう少し慎重に作戦を練られてはいかがかと……」
「いいのよ。考えすぎても企画倒れに終わるだけ。それよりも、臨機応変にね」
パターソンは、なおも何か言いたそうに口を動かしている。「それは『行き当たりばったり』です」という突っ込みでも、入れたいのだろうか。
でも、わたしは構わず、
「支部に行くわ、今すぐに。用意して」
と、パターソンを急かして馬車の用意をしてもらった。馬車の用意とは、すなわち、超絶技巧的な方向音痴のわたしとしては、支部のすぐ近くまで送ってもらわなければ、それこそ本当に(洗脳セミナーや人格改造講座以上に)危ないという意味。
「では、お気をつけて。何度も言うようですが、くれぐれも無謀なことは止めてくださいよ」
「分かってる。今日のところは、すぐ戻るわ。『取っ掛かり』だから」
「はい? 『取っ掛かり』ですか??」
馬車は、いぶかしげに首をひねるパターソンを尻目に屋敷を出た。
帝都の一等地を抜け、二等地か三等地の唯一神教支部までは、馬車に揺られ20分程度。一等地ではゴージャスな住宅が立ち並んでいるが、支部に近づくにつれ、(当然ながら)レベルが落ちていく。
プチドラは、屋敷を出る前から心配そうにわたしを見上げていたが、道のりの半分くらいまで来たところで、ピョンとわたしの肩に飛び乗り、
「マスター、あんなこと言って出てきたけど、本当に大丈夫なの? ちゃんと考えてる??」
「一応、考えてるわよ。今日からいきなり入信希望の洗脳セミナーに参加するわけじゃないわ。さっきも言ったでしょ。今日は『取っ掛かり』だって」
「でも、マスターのことだから、きっと、『考えてる』と言いながら……」
プチドラは、わたしの肩の上で「うーん」と首をひねっている。わたしはあまり信用がないらしい。いきなり隻眼の黒龍モードで強権発動のガサ入れと思っているのだろうか。今まで結果オーライで大雑把なことばかりしていたから、当然と言えば当然と言えるかもしれないが……
やがて、御者は静かに馬車を停め、
「この道を真っ直ぐ歩けば、すぐに唯一神教の支部です。今も看板が遠くに見えているのですが、お分かりになるでしょうか。それとも、支部の前に馬車を着けますか?」
「ここでいいわ。ありがとう。それじゃ、あとで……1時間くらいしたら、迎えに来てね」
プチドラを抱いて馬車を降りると、馬車はUターンして向きを変え、屋敷に戻っていった。




