本格的な潜入捜査
集会では、教祖様の挨拶、コーブ次長の概要説明に続き、数名の信徒から体験談が語られた。これは、教団に入ってどんな素晴らしいことがあったかという説明で、早い話、あからさまな勧誘でもある。すなわち、教団に入信した途端、病気が治ったとか、家庭が円満になったとか、諸々の「いいこと」があったという話で、そのことと教団への入信との因果関係については検証しようがないが、体験した本人は「唯一神様の力により救われた」と語っている。
この後は、質疑応答、懇談、よろず相談等々が行われることになるようだ。今朝の話では、いきなり高額のお布施を請求されたり洗脳セミナーへの申込書を書かされたりすることはないということだけど、引き揚げるなら、そろそろ頃合いではないか。
わたしはパターソンの腕を突っつき、
「ここで集会が終わるまで、調査を続けるの?」
「いえ、終わりまで続けなければならないことはありません。そろそろ戻りますか?」
わたしは無言でうなずいた。なんとなく教団の様子や雰囲気も分かったことだし、ここは、あまり長居するところではないだろう。
わたしとパターソンは、こっそりと広場を出て停めてあった馬車に戻った。御者は何も言わず馬に鞭を当て、馬車は来た道を反対に、屋敷に向かって動き出す。
わたしは「ふぅ~」と大きく息をはき出し、
「ひと仕事終えたみたいな感じね。レベッカ・コーブさんだっけ……、あの事務局次長の話、あなたには分かった?」
「いや~、なんと言いますか…… なんとも……」
パターソンにとっても、よく分からない話だったようだ。
「でも、どうして、そんなよく分からない話が、民衆の支持を受けるのかしら」
「話が分かる人は、あまりいないと思います。それよりも、教祖の起こす『奇跡』や教団の社会福祉的活動が、民衆の支持を集めているのでしょう」
わたしは思わず「なるほど」と納得。民衆が相手では、教義という理念よりも現実的な利得がものを言う、これこそ真理かもしれない。
「それで、パターソン、帝国宰相が喜びそうな教団の違法行為の証拠はあった?」
「いやぁ、怪しげなところは結構ありますが、先ほど目にした範囲では、違法行為の証拠は見当たりません。証拠をつかむためには、やはり、本格的な潜入捜査をしなければ難しいと思います」
「『本格的な潜入捜査』って?」
「実は、屋敷からあまり遠くはない、やや高級な住宅街に……もちろん、帝都の一等地ではなく、二等地か三等地くらいのところですが、そこに新しく唯一神教の支部ができたらしいのです。具体的な方法はこれから考えるとして、教団の支部に潜り込めば、証拠の収集は可能と思います」
「そうなの、教団支部に潜り込むのね……」
わたしは、特段深い意味があるわけではないが、内心ニヤリと……




