広場にて
馬車は、通りから人通りの少ない脇道に少し入ったところで停止した。
パターソンは注意深く周囲を見回した後、馬車のドアを開け、
「カトリーナ様、ここからは徒歩です。集会が行われる広場までは15分程度、ご辛抱を」
パターソンは馬車を降り、わたしもプチドラを抱いて彼に続いた。うまい具合に、脇道に人の姿はない。わたしたちは、誰にも見とがめられることなく通りに出て、行き交う一般庶民の間に紛れ込んだ。
広場へは、パターソンの先導によって、迷わず到着することができた。既に広場には、それなりの数の人々が集まっている(そのうちの何割かは、唯一神教信徒の、いわゆるサクラかもしれない)。中流市民地区とはいえ、人々の着ているものには汚れやツギハギが目立ち、どちらかと言えば、中流の中でも下流に近いような気がする。
人々は、期待や不安が交錯しているのか、何やら神妙な面持ちで集会が始まるのを待っていた。広場の一角には演壇が設けられ、唯一神教の(いわゆる出家)信徒だろうか、同じようなアイボリー色の衣服をまとった集団が、忙しそうに動き回っている。
パターソンは、さりげなく、それでいて油断なく、周囲に目を配りながらささやく。
「もうそろそろ、集会が始まる時間のはずです」
その時、不意に、広場全体から「わぁっ!」という歓声が沸き上がった。さらに、どこかから、「教祖様だ!」という声も上がり、それが口火となって、人々は口々に「教祖様、教祖様」を連呼し始めた。以前公園で見かけた信者ほどヤバそうな雰囲気はないが、それでも、教祖様を迎えての熱気は相当なものだ。
やがて、アイボリー色の衣服をまとった少女(アンジェラと同年代)が、壮年男女の二人組(見た目は30代)を従え、ゆっくりと演壇に登っていった。
パターソンは、じっと目を凝らし、
「言うまでもありませんが、あの少女は、唯一神教の教祖です。それで、少女にピッタリと付き従っている男女のペアが、教団の最高幹部の……」
パターソンの調べによれば、男性はエドウィン・キャンベル事務局長、そして女性はレベッカ・コーブ事務局次長とのことで、教祖とともに教団を代表する立場にあるという。なお、教祖様の氏名は、現在調査中らしい。
そして、この二人に続き、アイボリー色の衣服をまとった十数人の男女が演壇に登り、教祖様、事務局長、事務局次長の後方に横一列に整列した。さらに、演壇の周囲の(アイボリー色の衣服をまとった)信徒の中には、一癖も二癖もありそうな人相の悪い男や筋肉ムキムキのマッチョマンもいて、演壇を守るように辺りに目を光らせている。
この揃いのアイボリー色の衣服が、ユニフォームなのだろう。ちなみに、連中のユニフォームをよく見ると、教祖様の衣服には金の刺繍が、演壇にいる人たちの(教祖様を除く)衣服には銀の刺繍が、演壇の周囲の人相の悪いマッチョマンたちの衣服には銅の刺繍が施されている(なお、その他の信徒の衣服は無地)。どういう区分かは知らないが、刺繍の色が教団内における身分あるいは階級を表しているのだろう。




