帝都大図書館にて
わたしはそれなりに高級なドレスに着替え、高級な風呂敷包みに紙とインクを包み、プチドラを抱いて馬車に乗り込んだ。行き先は、言わずと知れた知識と学問の殿堂、帝都大図書館。これは、すなわち、学術的な書物を仕入れてくるというエレンとの約束を果たすとともに、難しくてためになる本が読みたいというアンジェラの要望を満たすための、このところのルーチンワーク。
馬車は、魔法アカデミー内にある帝都大図書館を目指し、石畳の道をゆっくりと進んだ。プチドラは、既にわたしの膝の上でまどろんでいる。わたしもこのまま馬車に揺られ、もうひと眠りしたい気分。
しかし、程なくして、馬車は無情にも、ギリシア建築を髣髴とさせる帝都大図書館玄関前に到着するのだった。わたしは思わずため息をつき、
「もう着いちゃったのね……」
わたしは事務所で閲覧と書写の手続を済ませ、長い廊下を歩いて閲覧室に向かった。帝都大図書館の入館資格は、男爵以上の貴族と魔法アカデミーの魔法使いとされ、貴族の場合は本を借りることはできないが、許可を得れば閲覧室内での書写が可能とされている。以前、アンジェラを図書館に連れてきたことはあるが、それも何度もということになると、少々気が引けるので、このところはプチドラのみ、ペットとして同伴している。
しばらく歩いていくと、テニスコート2面分程度のスペースに机と椅子が規則正しく並べられている部屋、すなわち「閲覧室」に到着。わたしは、閲覧室で百科事典のように分厚い蔵書目録3冊セットを渡され、その中から適当に難しく学術的な本を探した。蔵書目録には、見ていると目がチカチカしてきそうなくらい、細かい字がびっしり書き込まれている。
「本当に、どれもこれも…… 一体、なんなの、これ……」
つまり、蔵書目録だけを見ていても、わけが分からないのが正直なところ。
わたしはもう一度ため息をつき、
「でも、いいわ。本を見る前にどれを選ぶかで悩んでいても仕方ない。読んでみてつまらなければ、別の本に取り替えてもらえばいいか……」
わたしは適当に蔵書目録の頁をめくり、適当に同じ頁から「それと、これと、そして、この本」と、3冊の本を選び、書庫から持ってきてもらった。
「さあ、頑張るか……」
ちなみに、その3冊の本の題名は、「天地の生成と神々の役割」、「帝国各地の信仰に関する考察」、「古代文明から現代文明に至る過程における神々の変容」であった。なんとも宗教色が濃厚な組合せだけど、蔵書目録の内容別分類で同じ頁から選んだのだから、こういうこともあるだろう。
わたしは席に着いて紙をペンとインクを取り出し、黙々と書写を始めた。なお、書写の間、プチドラは机の上でスヤスヤと寝息を立てている。
そして、図書館らしく、静かに時は流れ……
「疲れた。今日はこれまでにするわ」
わたしは椅子に腰掛けたまま背伸びして、「ふう」とため息。室内なのでハッキリ分からないが、もう夕方なのだろう、日差しはかなり弱まっているようだ。