肝心なこと
ここで、わたしはふと肝心なことを思い出し、
「ところで、唯一神教の犯罪や違法行為の証拠みたいなのは見つかった?」
「いや、それが…… 今のところ、それらしいものは見受けられません」
「そうなの? 今日の帰りに唯一神教と地域住民が絡んだ乱闘騒ぎみたいな現場を見たけど、教団の信徒が暴力を振るった話なら、探せば簡単に見つかると思うわ」
「確かに、このところ、唯一神教及び彼らを支持する住民と反対派の住民との間で抗争事件もあるようですが、どんなものでしょう。帝国宰相がカトリーナ様に『特命』として申しつけるからには、単なる暴行や傷害ではなく、例えば……」
パターソンは、ここで「うーん」と腕を組んでしばらく考え、
「例えばですね、教団が政府転覆の陰謀を企てているといった、重大な犯罪が念頭に置かれているのではないかと思われますが」
なるほど、言われてみれば、そのような感じもする。乱闘現場で暴力を振るっているような末端の信徒が、(仮にそのような企てがあるとしての話だけど)政府転覆の陰謀に関する共同謀議に加わっているとは思えない。
「カトリーナ様、他に犯罪めいた話としましては、信憑性は疑問ですが、信者に多額の『お布施』を強要して資金源にしているとか、さる大貴族との裏社会を介した『黒いつながり』を利用しているとか、そういったところでしょうか」
パターソンは、資料を片付けながら、
「実は明日、中流階級住民の居住地区で、唯一神教の集会、すなわち、信者獲得のための一般向け説明会が行われるようなのです。教祖も出席するという話ですので、とりあえず、その集会に潜り込んでみようと思うのですが……」
「へえ、そうなの。なかなか面白そうね。それじゃ、わたしも、変装して身分が分からないようにして、行ってみることにするわ」
すると、パターソンは、「えっ!?」と驚き、
「カトリーナ様、それは、いかがなものかと…… なんといっても唯一神教ですから。特に、教団の教祖が出てくるとなると、場合によっては危険なことも……」
「一般向けの説明会でしょ。それに、場合によっては……、まあ、なんとかなるわ」
わたしはパターソンの反対意見を強引に斥け、説明会への参加を決めた。危険がないわけではないが、場合によっては、プチドラの魔法や火力で、なんとかなるだろう。
パターソンも最後には、「やれやれ」という顔で、
「承知いたしました。でも、あまり無茶なことは、なされないように」
そして、翌日、いつになく早く(それでも10時過ぎに)目を覚ましたわたしは、衣装箪笥をゴソゴソと……、その横では、プチドラが金貨が一杯に詰まった袋から顔だけを出し、寝ぼけ眼をこすりながら、
「むにゅにゅ…… マスター、おはよう……、と、何か探してるの?」
「今日、着ていく服をね。え~っと、どこに仕舞ったっけ? ああ、あったわ。これよ」
こうして衣装箪笥から取り出したのは、だいぶ前に使っていた質素なメイド服だった。