教祖様は不滅
声は公園の広場から聞こえてくる。わたしは広場から少し離れたところで馬車を降り(これは、神がかり行者と議論になると面倒なので、できるなら遠巻きに眺めるだけにしたいという意味)、プチドラを抱いて声のする方にこっそりと進んだ。
公園の広場への入り口付近まで来てみると、今日は、前に唯一神教の信徒たちが集まっていた時とは違って、閑散としていた。あまり通行人のいない中、ついでに言えば、演説に耳を傾ける人など全くいない公園で、確かに、神がかり行者の姿はあった。
しかし、実際に迷演説をぶっていたのは、その神がかり行者ではなく……
「あら、あなたは!!!」
わたしは思わず目を見開き、声を上げた。また、プチドラも「あっ」と、口を大きくと開け、(これ以上ないというくらいに)面食らっているようだ。
「こんにちは。先日は、なんと言いますか、とんでもないことになりまして、あの~、なんと言っていいものやら」
その声の主は、ほかならぬ教祖様(教団が消滅した今は「クレア」と呼ぶべきか)だった。
「はっはっはっ、驚天動地ネズミ一匹とはこのことか? せいぜい驚愕するがいい。その間抜け面が、お前のようなブタ女にはお似合いだ」
神がかり行者は、勝ち誇ったように言った。驚きの表現に「ネズミ一匹」は余計だと思うけど、それはさておき、神がかり行者が調子に乗って語るところによれば、教団本部でサイクロプスが大暴れし、魔法アカデミーの魔法使いに退治された後、自らがたまたま訪れた唯一神教本部(の跡地)にて、重傷を負って動けないでいた教祖様を見つけたので、保護したとのこと。御都合主義もここまで来れば神がかり的な感じもするけど、神出鬼没にして未だに正体すらハッキリ分からない神がかり行者のことだから、そういうものと割り切って考えるしかないだろう。神がかり行者に保護された後の教祖様は、自らの治癒魔法の力により、一晩でその傷を完治させてしまったらしい。
「おかげさまで、すっかり元気になりまして、今はこうして……、なんと言うのでしょう、え~と、街宣活動でしょうか、そのお手伝いをさせていただけることになりました」
教祖様は、ぺこりと頭を下げた。
「あっ、あら、そうなの。それはよかったわね」
と、わたしも、つい、つられて会釈を……
帰りの馬車の中で、わたしは「ふぅ~」と息を吐き出し、
「今回もいろいろあったけど、とりあえずは大団円かしら」
しかし、プチドラは「ぶぅ」と不満げな表情でわたしを見上げている。教祖様の顔を見て、教団の財宝の輝きを思い出したのだろう。でも、今更言い出しても、後悔先に立たずとか、覆水盆に返らずとか、そういうこと。ここは、物に執着しないエルフの発想を見習うべきだろう。幸いにも、わたしには、被害はなかったことだし……
ともあれ、今回の話、やたらと長くなってしまったけれど、教祖様の無事も判明したところで、幕としよう。




