コーブ事務局次長逮捕とその影響
わたしの屋敷にいたおかげで難を逃れた唯一神教信徒のアメリアは、唯一神教が「邪教」とされたことで、さぞや精神的に衝撃を受けたかと思いきや、実際には、全然そのようなことはなく……
「アンジェラさん、『終局的裁判』の日は、必ず訪れます。その日が来るまで!」
「必ずと言われても…… 一体、いつの日のことでしょう???」
アメリアは、今回の一件で教団組織が壊滅したことを「唯一神の与えた試練」と自らに都合よく解釈したらしく、これまでと同様に、唯一神教の教えを深く信仰している様子。また、教義上の問題に係るアンジェラとの問答で簡単にやり込められることも、以前と変わらない。教団がなくなってしまっても、信仰心は失われないものなのだろうか。ともあれ、アメリアに関しては、さほど実害はないので、とりあえずは放置することにしよう。
もう一つ、帝都の政治情勢については、事件の結果を総括的・結論的に言えば、帝国宰相の権勢が更に強まることとなった。
これは、キャンベル事務局長率いる聖戦士が壊滅した後、帝都の警備兵により、教団関係者の逮捕や関係箇所の捜索等が迅速に行われ、教団幹部であるコーブ事務局次長の身柄の確保も行われたことによる。話によれば、コーブ事務局次長は、暴動騒ぎの間、その騒ぎの原因が唯一神教とは夢にも思わず、ウェストゲート公の屋敷でお泊まり旅行をしているところだったという。そればかりか、コーブ事務局次長の行方を知った警備兵たちが彼女の逮捕に赴いた時には、ウェストゲート公の仲間のアート公及びサムストック公も交えて破廉恥極まりない行為の最中だったということだけど……、この「破廉恥極まりない行為」について、詳述するのはやめておこう。
コーブ事務局次長の逮捕により、同時に、三匹のぶたさん(すなわち、ウェストゲート公、アート公及びサムストック公)の政治的立場も一気に悪化してしまった。暴動を起こした団体の大幹部と懇意にしていたのだから、当然と言えば当然の話ではある。のみならず、事務局次長の逮捕の際には、事件前にウェストゲート公が教団に対して様々な便宜を図っていたことを示す証拠も、同時に発見され、そのことから、今回の暴動事件の黒幕がウェストゲート公、アート公及びサムストック公ではないかと疑われるようにもなった。
というわけで、この事件を機に三匹のブタさんを政治的に葬り去れるのであれば万々歳、帝国宰相はさぞや御機嫌であろう。そう思って、用もないのにフラリと宮殿に出向いてみたら、宰相は思いの外、渋い顔をして、
「まったく、面倒な事件が持ち上がるものじゃ。我が娘よ、まさかとは思うが、この度の教団の暴動事件、よもや、おまえが関与していのではあるまいな」
「御冗談を…… 教団には、腕利きの部下を送り込んで潜入捜査を行っておりましたが、残念ながら結果は芳しくなく、まったく、なんと申し上げてよいものやら……」
「もうよい。この件は終いじゃ。まったく……」
帝国宰相は難しい顔をして、何やらブツブツ言いながら、宮殿の長い廊下の奥に消えていった。




