それから
そして……
ここは帝都、わたしの屋敷、その応接室。
「今回は、失敗だったわ」
わたしはソファの上で背伸びして、「ふぅ~」と、大きく息を吐き出した。傍らでは、プチドラが「ぶぅ~」と、ふくれた顔をしてわたしを見上げている。言いたいことは分かっている。教団本部の金銀財宝のことだ(それ以外あり得ない)。
サイクロプスが予想外に大暴れしたため、唯一神教教団本部は破壊され、わたしとプチドラが狙っていた財宝は、教団本部の残骸である瓦礫の下敷きとなって、価値を大幅に(貴金属や金貨については地金としての程度に)減じてしまった。騒ぎが収まった後に帝都の駐在武官(親衛隊)を向かわせてみたが、回収作業は瓦礫に阻まれ容易ではなく、事実上、財宝を諦めざるを得ない結果となっている。
「仕方ない、こういうこともあるわ。人生七転び八起き」
こう言ってみたものの……、プチドラは依然として「ぶぅ~」と、恨めしそうにわたしを見上げ、体全体で不満を表明していた。
ちなみに、わたしたちが本部を離れた後、教団本部の騒動がどうなったかというと……
結論的には、サイクロプスが殺害されたことにより、事態はどうにか沈静化した。話によれば、教団本部が完全に破壊された後、魔法アカデミーの魔法使いが大勢で駆けつけ(厳密に言えば、魔法の杖に乗って飛来して)、魔法攻撃でサイクロプスをやっつけたという。
その際に確認されたところによれば、生存者はごく少数で、教団本部(建物の内外を問わず)にいた信徒のほとんどは、サイクロプスにグチャッと潰されたり、崩れ落ちる建物の下敷きになったりして死亡したとのこと。また、武装盗賊団や警備兵の多くも、サイクロプスの攻撃を受けたり、後から現れた魔法アカデミーの魔法使いが使用した大規模な攻撃魔法の巻き添えとなったりして、同様に死亡した(ことが確認された)という。
なお、ツンドラ侯は、運がいいのか悪運が強いのか、あばら骨を何本か折る大けがを負っているが、命に別状はないらしい。あの「単細胞」は(更に言えば「単細胞」なだけに)、生命力が半端なく強いようだ。
また、教団本部にどうして武装盗賊団が現れたかについて、若干解説を加えると(これは、パターソンの調査による)、武装盗賊団は、その日、本当の意味で偶然に、唯一神教本部を攻撃して信徒を殲滅するため、大挙して押し寄せてきた。「偶然に」とは読んで字のごとくで、換言すれば、帝都の宗教界の代表が武装盗賊団に唯一神教の撲滅を依頼し、武装盗賊団が動き出した、みたいな事実はないということ。少し敷衍すると、帝都の宗教界と武装盗賊団の関係を示す証拠が発見されていない以上、そのように解釈する以外ないという意味(これは、パターソンの解説)。真実はどうだか分からないが、証拠が見つからなければ、わたしが帝都の宗教界の連中に対して適当に(唯一神教を攻撃してもよいというお墨付きみたいに)言ったことは、今後問題にされることはないだろう。一応、めでたしめでたしと言えようか。




