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ザ☆旅行記Ⅹ 神と神々の都  作者: 小宮登志子
第3章 神祇庁次官
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心情的に理解できる話

 屋敷に戻り、応接室のソファの上で「今日はいろいろな意味で疲れた」とフニャっと横になっていると、アンジェラが紅茶とスイーツを持って現れ、

「お姉様、おやつをお持ちしました……が、その格好は……」

 と、アンジェラは、ちょっぴり唖然。

「ありがとう、アンジェラ。常在戦場という言葉はあるけど、四六時中戦場で切った張ったでは、身がもたないわ。たまには節度ある範囲内で息抜きも必要よ」

 自分では、「節度ある範囲内」のつもりだけど、アンジェラの基準ではそうではないのだろうか。ものの見方・感じ方はひとそれぞれ。


 ともあれ、アンジェラが持ってきてくれた紅茶とスイーツを楽しんでいると、パターソンがたくさんの資料を抱えて現れ、

「カトリーナ様、神祇庁次官としての最初の一日は、いかがでしたか」

「なんというかね…… 仕事自体は楽なところみたいだけど、業界団体の陳情の相手なんかさせられたら、たまらないわ」

 パターソンに、帝都の宗教界の代表との(予想外の)陳情受付あるいは懇談の話をすると、

「なるほど、それは面倒ですね。ただ、彼らの言い分は、心情的に理解できる部分もありますが」

「『理解できる』って、それ、どういう意味?」

「それはですね……、ひと言では難しいですね。ともあれ、帝国宰相の特命の件がありましたので、帝都駐在親衛隊員を動員して、少し調べてみました」

 パターソンが資料を示して説明するところによれば、唯一神教は、街頭での宣伝(布教)活動に加え、炊き出しなどの社会福祉的な活動も行い、スラム街を中心に貧民から絶大な支持を受けてきたという。教祖は「奇跡の乙女」と呼ばれ、手を触れただけで傷や病気を治したり、盲人の目を見えるようにしたりなど、様々な「奇跡」を示してきた。また、最近では、商業地域や平均的な市民の住宅地とともに、平民でも比較的所得の高い層の住む地域などにも進出し、更なる支持の拡大や信者の獲得を企図しているらしい。

「で、ここからが、その『心情的に』理解できる話なのですが……」

 パターソンは、苦笑しつつ話を続けた。それによると、教団の布教活動の対象が、帝都の一般市民や高所得層にまで広がるにつれ、教団と(比較的裕福な)市民の間での軋轢・対立も目立つようになってきたという。帝都の市民は元来、帝国2000万の神々を素朴に信仰してきたのであり、唯一神教が説くような(超越的)唯一絶対神という発想を、論理的にも心情的に受け入れることができない。スラム街で炊き出しを行う分には、「食べ物をくれるなら大歓迎」の貧民が相手なので問題にはならないが、基本的に衣食住に不自由しない中流以上の市民に対し、唯一神教側が言わばゴリ押し・押し売り的に「自分たちの信じる神こそ唯一絶対」と主張すると、当然(心情的なものも含め)、市民側からの反発が起こらざるを得ない(最初、公園で住民が唯一神教信徒を熱狂的に迎えたのは、教祖様来訪に伴って在家信徒が集結したみたいな、特別なイベントだったのだろう)。

「というわけで、私としましても、本音を言えば、唯一神教の連中だけは、ちょっと、という感じですね。『理解できる』とは、こういう意味です」

 と、パターソン。なるほど、わたしも少しは納得。

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