ツンドラ侯VS武装盗賊団
武装盗賊団の団員たちは、サイクロプスが倒れ込んでくると、その瞬間、教団信徒等に対する無差別殺戮の手を止めた(なお、教団本部の中庭(あるいは運動場)から通りへ出るためには、サイクロプスが破壊した教団本部の門を通るしかなく、その方向には、武装盗賊団及び手負いのサイクロプスがいるため、信徒たちは通りに脱出することができない)。
団員たちはすぐに、倒れ込んだサイクロプスの頭部を囲むようにして集まり、
「このサイクロプスはぁ! 我々の神聖な使命の遂行を妨害しようというのか!!」
と、一斉に、サイクロプスに対し剣を向けた。
ところが……
「待て、待て、ちょっと待てぇ-!!!」
と、その場に怒鳴り込んできたのは、ツンドラ侯だった。
「このサイクロプスは、俺の相手だ! 誰であろうと、手出しすることは許さん!!」
ツンドラ侯は駆け足で、武装盗賊団とサイクロプスの間に割って入り、さっきまで使用していた常識外に長い槍ではなく、両手用の大剣(ただし、通常一般の戦士が使うものの2倍程度の大きさ)を構えた。
「あららら……、らららら……だね」
プチドラは、わたしの腕の中で、肩をすぼめて手のひらを上に向け、「やれやれ」あるいは「ダメだ、こりゃ」のポーズ。繰り返しとなるが、警察の役目は、原理的・本来的には市民生活の平安を守ることであり、唯一神教信徒も帝都市民に違いはないはず。しかし、ツンドラ侯にとっては、本来「大盤振る舞い」で戦うはずであったサイクロプスとの勝負が何よりも優先されるようだ。
ただ、武装盗賊団は、すんなりとツンドラ侯の指示に従う気はなさそうだ。団員のうち一人が(リーダー格なのだろう)、ツンドラ侯を正面から見据え、
「貴殿は、確か、『単細……』、いや、失礼……、警察長官ですな。このサイクロプスは、我々の使命の妨害という大罪を犯した。よって、我々の手によって成敗されるのがルールなのですぞ!」
と、真っ向からツンドラ侯に反対、対決する姿勢を示している。
これには、ツンドラ侯も(「単細胞」なだけに、当然ながら)激怒し、
「俺様に刃向かうのか! 許さんぞ!! 逮捕、いや、今すぐにも死刑執行だ!!!」
と、両手用の大剣を大上段に構えた。
他方、武装盗賊団たちも即座に、
「たとえ、警察長官……いや、『単細胞』であろうとも、我々の使命を妨害するのなら!」
と、リーダーらしい団員を中心として輪になって、ローマ式に右手を高く上げ「オー!」と雄叫びを上げた。
「なっ、なにぃ! 誰が『単細胞』だぁ!! 絶対、許さんぞぉ!!!」
ツンドラ侯は「単細胞」と言われ、瞬間湯沸かし器のごとく頭に血が上ったのだろう。不動明王か金剛力士像のような顔となり、大音声を上げた。




