戦いの勝利者は
サイクロプスは、ツンドラ侯の攻撃により一つしかない目を潰され、通りを転げ回っている。「ほぁぁ~」とか「うぇぇ~」とか叫び声を上げ、見た感じ、とても痛そう。
「へぇ~、あの男、結構すごいんだ。サイクロプス相手に、魔法を使わず完勝しちゃったよ」
ガイウスは、サイクロプスをやっつけたツンドラ侯の腕前に舌を巻いた。
わたしも思わず唾を飲み込み、
「ツンドラ侯って……、ムチャクチャ強いのは知ってたけど……、やっぱり、本当に、正真正銘、強いのね」
と、我ながら、何を言ってるのかよく分からない言い回し。
ところが……
サイクロプスが打ち倒されたことにより、事態は収拾の方向に……と、動いたわけでは、まったくなかった。むしろ、混迷の度を深めたと言ってよいかもしれない。
重傷を負ったサイクロプスは、苦しげに辺りを転げ回り、手近にある構造物(通りに林立する建築物など)を手当たり次第に破壊し、運悪く付近に居合わせた人たちを踏みつぶした。
「こっ、これはっ! なんということだっ!!」
ツンドラ侯は、今更(本当に)驚いているわけではないだろうが、目を大きく見開いて、素っ頓狂な声を上げている。
配下の警備兵たちは、ツンドラ侯の周囲に集まって、あれこれと相談しているのか、あるいは、ツンドラ侯の指示を待っているようだ。ただ、ツンドラ侯とわたしの間で結構な距離があるので、詳細はよく分からない。
サイクロプスは、たった一つの目を潰され、周りが見えていないのだろう。「ふぁっはぁ~」とか「ふぃっひぃ~」とか気の狂ったような声を上げ、転げ回ってムチャクチャに暴れまくっている。ツンドラ侯との戦闘中に比べると凶暴さの度合いは高まっており、さっきより危険な状態となっているようだ。
プチドラは「ふぅ」と小さく息を吐き出すと、わたしを見上げ、、
「手負いの猛獣は危険というけど…… サイクロプスなら、なおさらだね」
「そうね。でも、ここにいる分には、問題ないでしょ」
わたしたちがいるのは、ダーク・エルフたちが作り出した魔法の球体の中。その球体は、(サイクロプスの手も届かない)教団本部建物の屋上程度の高さでふわふわと浮かんでいる。わたしとプチドラとダーク・エルフたちに限れば、一応、安全と言えるだろう。
しかし、そうでない人たちにとっては……
手負いのサイクロプスは、(周囲が見えているはずがないので、多分、たまたま進んだ方向に存在しただけであろう)唯一神教本部の門を破壊し、頭を教団本部の中庭(あるいは運動場)に向けて倒れ込んだ。
ちなみに、教団本部の中庭(あるいは運動場)では、武装盗賊団による教団信徒(及び運悪く居合わせた一般市民)への容赦ない虐殺が依然として続いており、辺り一面、血まみれの死体に覆われている。




