地獄
唯一神教本部前の通り及び本部の中庭(あるいは運動場)は、まさに修羅場と化した。一方では、2メートル30センチを超える(比喩的意味での)巨人ツンドラ侯が、10メートル以上の常識外に長い槍を軽々と振り回し、彼よりはるかに大きい(正真正銘の)一つ目巨人サイクロプスに打ちかかっていく。
そして、ツンドラ侯とサイクロプスの攻防が繰り広げられる中で、多数の教団信徒(及び運悪く居合わせた一般市民)が巻き添えとなり、通りに多くの遺体を……しかも、通常一般人の神経では正視できない形となってさらしていった。これは、すなわち、サイクロプスの巨大な足に踏み潰されてペチャンコにされたり、ツンドラ侯が振り回す槍に弾き飛ばされて通りの脇の建物の壁に(それこそ交通事故並みに)激しく体を打ちつけられたり等々ということ。ただ、遺体の詳細な描写は、筆者の能力を超えている。
また、他方、武装盗賊団に追い詰められた教団信徒(及び運悪く居合わせた一般市民)は、まるで水が低いところに流れ込むように、次々と教団本部の中庭(あるいは運動場)に逃げ込んでいった。しかし、建物内にいる教団信徒の連中は何を考えているのか(外の様子がよくわからないのだろうか)、教団本部の扉を内側から固く閉ざし、一切誰も本部内に入れようとしない。そのため、教団本部の中庭(あるいは運動場)には、文字どおり隙間もないくらい、ぎっしりと教団信徒(及び運悪く居合わせた一般市民)が詰め込まれ、体の向きを変えることもできない状態となっていった。
この物理的限界すら超えようかという寿司詰め状態の人々の固まりに向かって、今度は武装盗賊団が背後から迫り、次々と剣を振り下ろしていく。教団本部の中庭(あるいは運動場)に逃げ込んだ哀れな人々は、その最も外側の人から、まるでピーラーで機械的に野菜の皮をむくように、情け容赦なく打ち倒されていった。
この光景は「地獄」と表現してもよいかもしれない。「終局的裁判」が、(火の中に投げ込まれるのではないにせよ)唯一神教信徒自らの身に降りかかってきたかのように……
ふわふわと浮かぶ魔法の球体の中では、ガイウスが顔をしかめ、
「ここまでなると、ちょっとね……」
「そうですね、他人事とはいえ、あまりに……」
クラウディアも、眉をひそめた。しかし、ガイウスもクラウディアも、同情的なことは言っているものの、実際に哀れな人々を救うために行動を起こそうという気は(他のダーク・エルフも含めてだけど)なさそうだ。
ここで、ガイウスは、ふぅと小さく息を吐き出し、
「少し疲れてきた。あまり慣れない魔法を使うものではないな」
「では、この辺りで引き揚げますか? 目の保養のために」
と、クラウディア。確かに、眼下で繰り広げられている大虐殺は、あまり長く見ていたくない光景ではある。ところが、ガイウスは「う~ん」と、もう少しこの場に留まっていたそうな様子。




