再び魔法の球体
クラウディアは緊張感ある面持ちで、しかし、何やらちょっとした(野次馬的な)期待感のようなものも込めて、
「あの~、さっきから外が騒がしいようですが、もしかして事件発生?」
「事件……と言っていいのかな。事件には違いないんだが……」
と、ガイウスは少々困ったような表情。確かに、ひと言で説明するのは難しいだろう。
そうこうしているうちに、唯一神教教団本部のすぐ外の通りから「ひぃー、きゃぁー、うわぁー、ぐぇー」等々、人々の悲鳴が聞こえるようになった。これは、すなわち、教団信徒(及び運悪く居合わせた一般市民)たちが、通りの一方からは武装盗賊団に、その反対方向からはツンドラ侯率いる帝都の警備兵にサンドイッチにされるような形で、教団本部前の通りに座り込んでいるサイクロプスの前まで追い立てられてきたことを意味している。もし、今、その人々目がけて、サイクロプスが超巨大な棍棒を振り下ろしたらどうなるか……
「マスター、どうしたの?」
プチドラが怪訝な顔をしてわたしを見上げた。
「なんでもないわ。ちょっと、スプラッタホラー的な想像を……」
「スプラッタホラーですか? 穏やかじゃありませんね。でも……」
今度は、クラウディアが興味津々といった雰囲気で、わたしの顔をのぞき込んだ。
ガイウスは、ここでゴホンと意味ありげに咳払いをすると、
「とにかく、これから何が起こるか分からない。用心するに越したことはないな。ここはひとつ、この前のアレで行こう」
と、仲間のダーク・エルフたちにてきぱきと指示を出した。すると、すぐに、ここにいるダーク・エルフ全員が(ガイウスとクラウディアも含め)、わたしの周りを取り囲んで輪になり、何やらブツブツと呪文の詠唱を始める。これは、確か、この前に南方で見た魔法のはず。程なくして、輪になったダーク・エルフを外側から包み込むようにして、超特大のシャボン玉のようなフワフワとした魔法の球体が出現した。
魔法の球体はダーク・エルフ及びわたし(プチドラも込みで)を収容し、教団本部の中庭(あるいは運動場)から垂直方向に、ふわふわと浮かび上がった。その球体の外……つまり教団本部の中庭には、教祖様が一人取り残され、泣きそうな顔でこちらを見上げている。
「今回は定員が少なくてね。これで精一杯なんだ」
ガイウスが言った。小さい女の子を一人残していくことには、(ほんの少しかもしれないが)良心が痛む部分があったのだろう。
ちなみに、ガイウスの説明によれば、前回、トードウォリアーの領域で同じ魔法を使った際には、こういった空間移動魔法を得意とするダーク・エルフが大勢いたので定員に比較的余裕があったが、今回は、ここにいるダーク・エルフ全員の力で同じ魔法を使っても、わたしとプチドラを内部に取り込むのが精一杯とのこと。わたし的には、プチドラに隻眼の黒龍モードになってもらえば問題ないわけだが……、今更言い出すのも面倒だし、今回は彼らの厚意に甘えることにしよう。




