いずれは交通渋滞に
「ぽっぽー、へっぷー」
「ぷっぷ-、ぶっぴー……、はっはっはっ」
意味は皆目見当もつかないが、これでも会話が成立しているようだ。先ほどから通訳を務めているダーク・エルフは、サイクロプスに向かってにこやかに笑いかけている(本当に御苦労なことではある)。一方、サイクロプスも、今のところは機嫌よく、時折大きな口を開けて笑いながら、話をするのを楽しんでいる様子。この調子なら、もうしばらくはサイクロプスを暴れさせずに済みそうだ。なので、わたしはとりあえずホッと一息。
ここで、なんということはないが(一息のついでに)周囲をクルリと見回してみると、
「なんだか……、なんとも言いようがないけど、なんなの、あれ?」
教団本部前を(本部側から見て右から左あるいは左から右に)走る通りでは、その通りを一方に進んだ先と、その反対方向に進んだ先に(つまり、教団本部を出て、右に行こうが、左に行こうが、その進んだ先に)、人だかりができていた。さらに、その人だかりをよく見ると、教団のユニフォーム(アイボリー色の衣服)の着用者がその半分以上を占めている。
ということは、すなわち……
「教団の支部から急いで駆けつけてきた信徒たちだろうね」
と、プチドラはわたしの腕の中で、「なんだかなぁ」といった表情。
わたしも「ふぅ」と、小さく息を吐き出し、
「信徒なのは、見れば分かるわ。それに、あんな離れたところに集まってる理由も……」
信徒たちは、キャンベル事務局長の「教団本部に全員集結せよ」という命令を受け、集まってきたに違いない。ところが、教団本部の入り口の門の前では、恐ろしい異形の怪物サイクロプスが座り込んでいる。信徒たちはおそらく、「事務局長の命令は命令だが、しかし……」と、教団本部に近づくことに逡巡しているのだろう。
なお、人だかりのうち教団のユニフォームを着用していない者は、(教団支部での住み込みではない)いわゆる在家信者、あるいは、教団とは無関係の一般の通行人だろう。
その(右と左の)人だかりは、少しずつではあるが、一人、また一人とその数を増やしているように見える。このまま放置すれば、そのうち、この付近一帯でひどい交通渋滞が発生するだろう。
プチドラは、わたしを見上げ、
「マスター、なんだか……なんとも言いようがないけど、どうするの?」
「『どうする』と言われても、どうしようもないわ。とりあえず成行に任せるしか……」
わたしには、集まってきた教団信徒を本部内に誘導する義務はないし、無償かつ善意でそういうことをする義理もない(と、自分では思う)。ただ、余り渋滞がひどくなって、帝都の警察が交通整理など始めると、面倒なことになるかもしれない(それは困る)。そんなことを考えていると……
……ぺ……れ……ぎ……よ…… ……ぺ……れ……ぎ……よ……
……ぺ……れ……ぺ……れ…… ……ぺ……れ……さ……ぁ……




