出発の際のドタバタ劇
キャンベル事務局長は、手近にいた聖戦士の胸ぐらをグイと捕まえ、
「馬車だ! すぐに馬車の用意をしろ!! 急げ、すぐに!!!」
命令を受けた聖戦士は「ひっ」と小さい声を上げると、こくりとうなずき、すぐさま教団本部の建物内へと全力で走り込んでいった(ノロノロしていると殴られるのだろう)。
そして、キャンベル事務局長は、わたし(及びダーク・エルフたち)に顔を向け、
「おまえたちは、しばらく本部で待っていてくれ。ブタ野郎どもの始末は、ここにいる聖戦士だけで十分だ」
「そう仰せならば、ここで待ちますが、本当に大丈夫? サイクロプスも待機ですか?」
「問題ない。ブタの始末は、本来、俺一人でも十分なんだ。聖戦士は単なるオマケだ。しかし、聖戦士がここにいる以上、連れていく。サイクロプスは……、そうだな、ブタ相手には『牛刀焉んぞ牛後となる無かれ』だ。異論はないだろう」
わたしは……いや、わたしだけでなく、プチドラもガイウスもクラウディアも「はて」と首をひねった。聖戦士は「オマケだけど、ここにいる以上、連れて行いく」って……、キャンベル事務局長の理屈は意味不明。のみならず、正しくは「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」だし、教団本部に着く前は「サイクロプスともども」と言っていたのにすっかり忘れてるようだし、貴族の屋敷には護衛の兵士がいることも想定しておくべきだし……、まだ事務局長の体にアルコールが残っているのだろうか。
しかし、程なくして……
「事務局長、急な話でしたが、なんとか用意できました」
先ほど胸ぐらを捕まれた聖戦士が、教団本部の建物(ただし、先ほど入った玄関とは別の、やや離れたところ)から現れ、大きな声で言った。その聖戦士の後方からは、(本部建物の1階には格納場所があるのだろう)十数台の馬車が続き、教団本部建物の中庭(あるいは運動場)に向かって進んでいく。
キャンベル事務局長は、「よしっ」と叫んで気合いを入れ、
「よーし! 出発!! この俺に続け!!!」
と、真っ先に先頭の馬車に乗り込んだ。
聖戦士たちも、互いに顔を見合わせながら(まだ、得心がいっていない部分が少なからずあるようだ)、ゾロゾロと馬車に乗り込んでいく。
こうして、ともかくも、キャンベル事務局長及び聖戦士数十人を乗せた馬車の車列は、コーブ事務局次長救出という大義名分の下、唯一神教本部を出発した。
教祖様は、スピードを上げながら去りゆく車列を後方から見送りながら、
「あの~、大丈夫なのでしょうか。わたし、本当に、何がなんだか分からなくて……」
「どうかしら…… なんとかなるかもしれないし、ならないかもしれないわね」
と、わたしは思わず「ふぅ~」と、大きくため息をついた。
なお、馬車が教団本部から通りに出る際、聖戦士たちが座り込んでいるサイクロプスを見て大いに驚き、パニックを起こしかけたことは、念のため付言しておこう。




