迷演説が終わって
「……と、いうわけで、え~っと、コーブ事務局次長を助け出すべく、湿布うどん(疾風怒濤の誤り)演劇(電撃の誤り)作戦を開始すべきである!」
こうして、演説の体を成していたかどうかは別として、ともかくも教祖様の話は終わった。彼女は不安げな表情を浮かべ、わたしを見つめている。教祖様の拙い話しぶりでこちらの意図がうまく伝わっているかどうかは、聖戦士たちの反応次第だけど、果たして……
聖戦士たちは、教祖様の話が終わってもすぐには反応せず、お互いに顔を見合わせていたが、やがて、教祖様直々の御命令ということで納得したのか(あるいは、疑問を抱きつつも、そういうことで自らを納得させたのか)、口々に「うぉー」とか「うわぁー」とか大声を(少々リラクタントな感じもなきにしもあらずだけど)上げた。
キャンベル事務局長はそれを見て、「うんうん」と満足げにうなずき、
「よしっ、決まった! これより、あの憎たらしいブタ野郎どもを皆殺しに向かうぞ。その前に兵力増強。まず、教団本部に信徒を全員集結させるんだ。今すぐ指令を出せ!!」
と、聖戦士の一人を蹴飛ばした。蹴られた聖戦士は、文句も言わず教団本部の建物内に駆け込んでいく。本部内の相応のセクションから、各支部等や信徒の家庭に指令を伝達してもらおうというのだろう。教祖様は非常に済まなさそうな顔をして、その聖戦士の後ろ姿を見送っていた。
その後、しばらくの間、キャンベル事務局長は、整列する数十人の聖戦士たちを前に、右に行ったり左に行ったり、落ち着きなく歩き回っていたが、
「え~い! 遅い!! 教団本部に来るだけで、どれだけ時間がかかるんだ!!!」
と、突然、大声を上げた。しかし、聖戦士の一人を蹴飛ばしてから今までは、10分も経っていない。在家信徒や支部の信徒が集合するとしても、10分程度では、いくらなんでも無理な注文だろう。
わたしは思わず失笑を漏らしながら、
「魔法使いなら話は別かもしれないけどね……」
「どうしたの、マスター? 魔法使いというと、魔法アカデミーの??」
プチドラは「はて」と、少し頭を傾けながら、わたしを見上げた。
「えっ? 魔法アカデミー!?」
わたしは、今度は驚きのあまりプチドラを落っことしそうになりながら、声を上げた。サイクロプスが闘技場を抜け出したという情報は、すぐに帝国政府に伝わるだろう(既に伝わってるかもしれない)。帝都警察はともかく、魔法アカデミーの魔法使いがサイクロプスの捕獲あるいは殺害のため動き出すことになれば、その対応は非常に素早いものとなるはず。ならば、ここで無為に時間をつぶしているわけには……
しかし、その心配は杞憂に終わったようだ。
「とにかく、最初はここにいる聖戦士だけで作戦開始だ! いくぞぉー!!」
キャンベル事務局長は、「うぉ-!」と野獣のような雄叫びを上げた。ただ、事務局長の意気込みと比べてみると、聖戦士たちの反応は、やはり、イマイチのようだ。




