教祖様のお出まし
しばらくすると、キャンベル事務局長は、教祖様をいわゆる「お姫様だっこ」にして戻ってきた。教祖様は、恐らく事務局長に異議を唱える間もなく(丸太を「よいしょ」と持ち上げるような調子で)連れてこられたのだろう、抱えられた事務局長の腕の中、困惑と恐怖の入り交じった複雑な表情で、辺りをきょろきょろと見回している。
キャンベル事務局長は、整列している聖戦士の前で教祖様を地面に下ろすと、教祖様の間近にグイと顔を近づけ、
「こいつら、聖戦士たちに、ひとつ、ビシッと言ってやってください。これから、教団の存亡がかかった戦い、大変な戦いが始まるんだ!」
しかし、教祖様はわけが分からず、
「あの……、はい、でも……、『ビシッと』と言われても……」
と、まごまごするばかり。キャンベル事務局長のことだから、多分、教祖様に全くなんの説明もしていないのだろう。
わたしはそっと教祖様の背後に近づき、その耳元で、
「教祖様。わたしの顔を覚えておいでですか?」
「えっ? あっ、あなたは……、え~っと、え~……」
教祖様は額に手をやり、考えている(思い出そうとしている)様子。確か、教祖様は結構なぼけキャラだったはず。そう遠い昔の話ではないはずだけど、もしかしたら、わたしのことを忘れてるかも(それは困る)……
「以前、あの時もコーブ事務局次長がいない日だったと思いますが、お世話係のアメリアと一緒に教祖様のお部屋で長い話を聞かされた、カトリーナですよ」
すると、教祖様は「あーっ!」と口を大きく開け、
「はい、そうでした、そうでした! カトリーナさん。でも、どうして、そんな格好に?」
ちなみに、わたしが今着ているのは、教団エリート信徒のユニフォーム(銀の刺繍の施されたアイボリー色の衣服)ではなく、なんとなく愛用のくたびれたメイド服である。
わたしは教祖様の耳元で、少々語調を強め、
「細かいことは気にしなくていいから、わたしが耳元で言った言葉そのまま、大きな声で喋ってください。この場をうまく収めるために。そうでないと、どんな事態を招くか分からないですからね」
「あっ……、はっ、はい……、分かりました。よく分かりませんが……、はい」
こうして、これ以上ないというくらいあからさまな、かつ最初からタネも仕掛けもバレバレの二人羽織、つまり、聖戦士を前にした教祖様の演説が始まり……
「我が中庸(忠勇の誤り)なる聖戦士たちよ、今日から究極適材班(『終局的裁判』の誤り)が始まる。日々のロープ(労苦の誤り)が報いられる時が、やって来たのだ!」
と、最初から、聞き違い、言い違いのオンパレード。その続きを詳細に記すことは、冗長になるのでやめよう。教祖様の迷演説・珍演説の大意をかいつまんで言うと、「コーブ事務局次長が悪者の帝国政府の高官に拉致されたので、今すぐ救出に赴け」という、非常に単純なもの。




