走るサイクロプス
サイクロプスはキャンベル事務局長を握ったまま(ただし、あまり力を入れずに。本気を出せば事務局長など簡単に握りつぶしてしまうだろう)、唯一神教本部に向け、帝都の通りをズンズンズンと地響きを立てながら駆けていった。
ちなみに、サイクロプスにとっては、三匹のブタさん(ウェストゲート公、アート公及びサムストック公)を成敗しなければならない理由はないはずだけど、そこは適当に口車に乗せて……、言い換えれば、それだけサイクロプスが愚かということの証明でもある。
東の空は、うっすらと白み始めていた。時間的には、今はもう夜明け前となっているのだろう。通りには、人の姿はごくまれで、その数少ない人も、巨大な目をギラギラと光らせて疾走するサイクロプスの姿を見ると、「ひぃー!」と、まるで悪魔にでも出くわしたかのような悲鳴を上げ(サイクロプスも悪魔もそう違わないかもしれないが)、物陰あるいは細い路地に隠れてしまう。
わたし及びガイウス、クラウディアなどダーク・エルフの一団は、(ガイウスと別行動のダーク・エルフたちが、闘技場に向かう際に使用していた)馬車数台に分乗して、サイクロプスの後方を全速力で駆けた。サイクロプスは、体が大きくて頭が悪い割には、意外にも動きは俊敏で、馬車が引き離されないようにするのも結構大変という状況。
わたしは、全速力で走る馬車の中で気分が悪くなって、
「うっ、うぇ、オエップ……、なっ、何、これ……」
「カトリーナさん……、おえ~……、これ、試練です……」
クラウディアも青い顔をして、苦しそうに口を押さえている。
こうして、しばらく進んでいくと、前方から、
「止まれ! 停止せよ!! ストーーップ!!!」
と、男の声が響いた。一体、なんだろう。可能性としては、異常を察知した町の警備兵たちがとりあえずサイクロプスの進路を塞ぎ、職務質問といったところだろうか。
すると、サイクロプスは、「ぺっぽー、ぷっふぉー」と意味不明の声を上げながら急停止。それに伴い、馬車も同様にカックンカックンと大きな揺れを伴いつつ停止した。
わたしはぐったりと、馬車の席の背もたれにもたれかかり、
「なんだか知らないけど、ともかくも止まってくれて、助かったわ」
「そうですねえ……、おえ~……」
クラウディアも(マンガ的に表現すると)フニャッとして、クルクル目を回している様子。
「ここから先は通れないぞ! 我々、帝都警察の威信にかけて……」
前方からは、さっきと同じ男のものであろう声が響いてくる。馬車の窓を少し開けて前方を見渡してみると、果して、サイクロプスの前に数十人の重装備の兵士が並び、槍を構えていた。
「降参して我々の命令に従え! さもなくば、大変なことになるぞ」
またもや同じ男の声が響いた。その声は、上ずったり震えたりせず、どことなく自信ありげ。数十人という数の力もあろうが、それなりに戦闘経験もあるのだろう。




