帝都の宗教界を代表して
「本日、我々が参上いたしましたのは、唯一神教を名乗る怪しげな連中について、申し上げておきたいことがあったからでございます」
コリー最高神官官房次長(肩書きはなんとも微妙だが)が言った。彼の話を要約すると、最近、帝都で勢力を拡大している唯一神教の布教活動の一切が、帝都の宗教界における暗黙の了解を甚だしく逸脱しているので、取り締まってほしいとのこと。
ちなみに、本日神祇庁を訪れた神官は、最高秩序神に仕えるコリー最高神官官房次長のほか、公平の神、雷光の神、北の大河の神等々に仕える神殿の神官たちであり、帝都の宗教界の代表として、要望を伝えにきたという。彼らの着ている白っぽい衣服も、よく見てみると、生地の微妙な色合いや、ボタンやベルトの位置、襟、肩、袖などに施された装飾に違いがあるようだ。
ひととおりコリー最高神官官房次長の話が終わると、わたしは、改めて(役職に見合った)できるだけ重々しい雰囲気を演出しつつ、
「話は分かりました。しかし……」
実を言えば、唯一神教の何が問題なのか、理解しているわけではない。でも、黙っているわけにもいかないので、こういう場合の常套手段として、
「これは複雑な案件なので、この場で即答するわけにはいかない。神祇庁で対応を検討するので、本日のところは、要望を聞いたということで、御理解願いたい」
すると、コリー最高神官官房次長以下、神官たちは、深々と頭を下げ、
「よろしくお願いいたしまする」
こうして神官たちが退去すると、わたしは「ふう~」と大きく息を吐き出し、
「なんとか、しのいだわね」
「あの~、次長、先ほど『対応を検討する』とおっしゃいましたが、どのような対応をお考えなのでしょうか」
同席していた総務部長が縮こまって、恐る恐る尋ねた。
「『どのような』って…… そもそもわたしが神祇庁次官に任命されたのは、今日よ。対応と言われたって、わたしに分かるわけがないでしょう」
すると、総務部長は「あちゃ~」と頭に手をやり、天井を仰いだ。
「この微妙な問題に、なんと安直な……」
総務部長は、「あー」とか「うー」とか言いながら、両手で髪の毛を掻きむしっている。単なるジェスチャーではなく、本気で困っているような体の動き。
やがて、総務部長は手で髪を整え、わたしの方に向き直り、
「あの~、次官、先ほども申し上げましたように……」
と、おもむろに咳払いを一つ加え、説明を始めた。それによると、神祇庁の権限は、帝国政府による宗教的儀式の挙行及びそれに付随する事務、宗教的事項の調査、統計の作成などに限られるという(先刻も同じ説明をしたということだけど、そうだっけ?)。
すなわち、神祇庁には、唯一神教の活動を制限する権限はもちろん、教団の活動に対して助言や指導を行う権限もなく、換言すれば、唯一神教の取締りは神祇庁の権限の及ぶところではないということらしい。




