アリーナの一つ目巨人
ガイウスが頑丈そうな鉄の扉を開けると、その先には、広大な円形のアリーナが広がっていた。アリーナの周囲を、階段状の観客席がぐるりと取り囲んでいる(夜なので暗くて見えにくいが、伝聞知識にしたがえば、建築物の構造上、そうなっているはず)。
そのアリーナの中央部には、黒い山のような(あるいは壁のような)影があって、わたしたちが近寄ると、「うっほー」だか「ほっぽー」だかハッキリ聞き取れないが大きな声を上げた。
「これが……」
わたしは巨大な影を前にして立ち止まり、思わず声を上げた。これまでの流れから考えれば、この巨大な影はサイクロプスに間違いない。
「うむ……、しかし、暗くて少し分かりづらいな。誰か……」
ガイウスはそう言って、仲間のダーク・エルフたちに顔を向けた。すると、その一人が、口をモゴモゴと動かした。これは、例によって魔法の呪文だろう。
程なくして、アリーナ内は昼のように明るくなった。周りを見回してみると、アリーナの上には光の球が幾つか打ち上げられ、野球場に取り付けられた照明のように闘技場を照らしている。
すると……
「うっ、うげぇ~! こっ、これがサイクロ……!! うわぁ!!!」
キャンベル事務局長が、驚嘆の(間の抜けたような感もあるが)声を上げた。
わたしたちの前にいたのは、果して、身長は(北方の巨人よりひと周り大きい)4階建てのビルほどもある一つ目巨人、サイクロプス。今はアリーナの地べたに座り込んでいるが、単一の超巨大な目は、わたしたちの背丈よりはるかに高いところにあって、射すくめるように鋭い眼光を放っている。
「サイクロプス、いつ見ても強そうですねえ。知性はまったく感じられませんが」
クラウディアは遠巻きにサイクロプスを見上げ、「ククク」と(馬鹿にするように)笑った。
よく見ると、サイクロプスの周囲には、十数名の人影(ガイウスの仲間のダーク・エルフであろう)がたむろし、何やら身振り手振りを交えてサイクロプスに話しかけようとしている様子。その傍らには、四つ足の大きな家畜(すなわち、「牛」)の死体が山と積まれている。さらに、その牛の死体の山のすぐ隣には、甲冑を身のまとった兵士が(先刻、通路の一角に無理矢理押し込まれていた警備兵の仲間だろう)一人、無造作に縄でグルグル巻きにされ、転がされていた。
ガイウスは、満足げに何度かうなずき、
「うん、だいたい、予定どおりだな。お土産も確保できたようだし」
「お土産って?」
わたしはガイウスを見上げた。すると、ガイウスはニッコリとして、牛の死体の山を指さした。話によると、わたしたちとは別行動の仲間が、サイクロプスへの手土産にするため、例の「大盤振る舞い」のバーベキュー用に帝都に連れてこられた牛を、十数頭、「くすねて」きたのだとか。




