ギュウギュウに詰め込まれた……
キャンベル事務局長は、余程驚いたのだろう、先頭を歩くガイウスの隣で「あわわ」と青い顔をしている。さっきまでの元気はどこかに吹っ飛んでしまったようだ。「何事だろう」と事務局長の近くまで歩み寄ってみると、それもそのはず……
「なに、これ……」
と、わたしは、瞬間、言葉を失った。というのは、通路の途中に6畳程度の広さの小部屋のようなスペースがあり、そこに、警備兵(おそらくは、その死体)がギュウギュウに押し込まれ、詰め込まれていたから。比喩的に表現すれば、均一料金で詰め込み放題の品物を少しでも多く持ち帰るため、品物が少々損壊しようが構わず、とにかく袋の中に(あるいは袋を拡張してでも)入るだけ入れ込むような状態と言えようか。
わたしはガイウスを見上げ、
「あの~、これは一体?」
「先に闘技場に到着した仲間が気を利かせて、障害を排除してくれたのだろう」
「確かに、警備兵に騒がれたら面倒だけど、それにしても…… まあ、いいか……」
と、わたしは独り言のように言った。
ガイウスの解説によれば、わたしたちとは別行動のダーク・エルフたちが、わたしたちの到着に先立って、闘技場内の警備兵を一掃するとともに、死体が通行の邪魔にならないよう、このスペースに死体を詰め込んだと推察されるとのこと。一見、鬼畜の所行のようにも見えるけど、警備兵は、ガイウスたちとは同族ではなく、むしろ「すべてのエルフの母」を幽閉する仇敵の一味とも言える。ダーク・エルフにとっては、警備兵を物のように扱うことに対し、ためらいを感じることはないのだろう。
「え~、とにかく……」
と、ガイウスはゴホンと咳払いをして、
「先を急ごう。あまりぐずぐずしていると、朝になってしまうぞ」
わたしたちはガイウスに促され、更に先へと進んだ。
そして、今までと同じく殺風景な通路を進んでいくと、程なくして、その通路の先に、頑丈そうな鉄の扉が見えた。
ガイウスは「ふぅ」と小さく息を吐き出し、しかし、ニッコリとして、
「ようやくアリーナに到着のようだな」
「では、ようやくサイクロプスとご対面、その馬鹿面を拝めるというわけですね」
クラウディアは「キャッキャッ」と、子どものように純粋は歓喜の声を上げた。そして、わたしの耳元に口を近づけ、
「サイクロプスを見るのは、本当に久しぶり。楽しみです」
「そうなの? わたしは初めてだけど……」
ダーク・エルフにとっては、これからが「すべてのエルフの母」を救出できるかどうかの正念場のはずだが……、クラウディアのみならず、他のダーク・エルフたちも、これから目にするであろうサイクロプスに興味津々の様子。エルフとは……、本来的に、こういう種族なのだろう。




